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評判の悪い「記者ぶら」についての雑感 阿比留瑠比
本日は、いわゆる「記者ぶらさがり取材」について、思うところを記します。野田佳彦首相は、菅直人前首相のやり方を真似て、毎日の記者ぶらさがり取材を「受けない」としています。主に失言を避けるためとされ、ネットなどの反応をみると「マスゴミのぶらざかり取材など受ける必要はない」という肯定的な見方と、「記者ぶらぐらいさばけないで逃げてどうする」という否定的な見解の双方があるようです。

私自身は、国民がときの首相と政府の考え方を知る機会を確保する意味で記者ぶらさがり取材は継続した方がいいと考えています。ただ、ここで長年(計8年余)、官邸担当記者をやっていたものとして「本音」を語ろうと思います。

マスコミ各社がほぼ一致して継続を求めているこのぶらさがり取材ですが、正直なところ、われわれ記者にとってない方が楽で有り難い部分もあるのです。

例えば夜のぶらさがり取材は首相のキャラクターやそのときの政治状況、日程などで多少変わってきますが、ほぼ夕方の6時ごろから、夜8時ごろまでの間に行われることが多いのです。これは官邸報道室、担当秘書官などから予定時間が知らされます。

なのですが、そのときの首相の都合や急な来客などで、予定時間になっても始まらないことがしばしばで、特に菅氏は遅刻の常習者でした。約束の時間に20~30分遅れることは珍しくなく、その間、ぶらさがり要員の記者も、その報告を受けて記事にするかどうか判断し、デスクと打ち合わせて記事を書くキャップ、サブも待機を強いられます。ときにはそれが締め切りと重なり、一層いらいらが募るのでした。

そういった場合、たとえ夜7時半から取材のアポイントがあろうと、取材相手から飲み会の誘いがあろうと官邸を離れるわけにはいきません。約束した相手にわびを入れたり、アポを変更してもらうなどしながらじりじりと「ぶら」が始まるのを待つしかありません。

しかも、そうして「ぶら」が始まっても、ほとんどつまらないことしか言わなかった菅氏はともかく、常に素っ頓狂で正気を疑うようなことを言い出す鳩山由紀夫元首相などの場合は油断ができません。朝述べたことと夕には違うことを言い出す「食言上等!」の人だったので、ぶらさがり取材の結果を受けて、せっかく書き上がっていた記事を全面的に差し替えたり、他の記事も整合性上、微修正を加えたりと連日のようにてんてこ舞いでした。

そうこうしているうちに、夜の取材どころか夕飯すら食べ損ねるということがたびたびありましたし、今年3月に菅氏が東日本大震災を口実にぶら拒否を始めた際は、内心、これで少し楽になったと思ったものでした。
私はとにかく、できるだけ楽をしたいという気質、性質を持っているので、本来であれば、ぶらさがり拒否なんて渡りに船、と言いたいところなのですが、やはり国民に「情報」を伝えるという仕事上の立場を考えるとそうは言っていられないのです。

繰り返します。ぶらさがり取材なんてなくても新聞紙面は埋まりますし、むしろない方が現場の負担は少なく、うれしいぐらいなのです。それでもなお、筋として、記者ぶらはあった方がいいと思うのです。

以前のエントリで少し触れたらたくさんの反応があったTPP交渉参加問題にしろ、米軍普天間飛行場移設問題にしろ米国産牛肉輸入問題にしろ、また、原発輸出にしろ土壌除染にしろ韓国が主張する無理筋な慰安婦問題にしろ竹島問題にしろ、日々、世界は動いていて、たくさんのニュースが入ってきます。

その中で、わが国のトップがどう考えていて、どう動こうとしているのか知りたい問題は枚挙にいとまがありません。官房長官が毎日、記者会見しているからよいのだという意見もありますが、やはり政治の世界では官房長官と首相とでは発言の重みが天と地ほど違うものです。なんだかんだ言って、日本国は首相という1個人が動かしている部分が大きいのです。そのトップの判断、考えはいくら問うても足りないくらいです。

だいたい、これまで慣例的に、記者ぶらの質問事項はおおむね(全部ではありませんし、首相の答弁を受けての再質問などは事前通告のしようがありませんが)、事前に首相サイドに伝えてあるのです。なので、それでも失言を恐れて受けられないというのは、その政治家とスタッフの側の能力を疑問視せざるを得ないところです。

もちろん、われわれメディア側の質問がつたないとか、揚げ足とりが多いだとかのご批判も分かります。マスコミは国民を代表してなんかいないし、その知る権利に奉仕もしていないというご指摘も承知しています。それらのご批判はもっともだと思いますが、たとえ聞き手が拙かろうと、聞く機会自体を減らした方がいいという理屈にはならないと愚考するのです。

また、記者会見をやればいいという意見もあります。ただ、首相記者会見ではどの社のどの記者を指名するかはいくらでも恣意的に操作できますし、再質問は原則許されていないので、あまり突っ込んだやりとりにはなりにくいという性質もあります。さらに、菅氏がそうだったように、自分が何かアピールしたいときだけ緊急記者会見を開き、そうでないときはいくら重要問題が浮上しても知らんぷり、というやり方も常態化しかねません。

昨今、マスコミによる印象操作やレッテル貼りが批判されています。それはどんどん批判すべきものだと思いますが、ただ、気をつけておかないといけないのは、印象操作もレッテル貼りもマスコミの専売特許ではないということです。政治家も官僚も、このところの世間のマスコミ報道への風当たりの強さを利用して、都合の悪い記事や報道について印象操作やレッテル貼りを通じてその価値や信憑性をおとしめることをします。

当然ながら、マスコミが常に正しいわけでも公正なわけでもありませんが、それはその所在対象にも言えることなのです。マスコミは私も含め、しょっちゅう判断を間違えたり、見通しを違えたりするので信頼性が持てないといわれれば返す言葉はありません。ただ、だからといって、報道がすべてが嘘であるとか、歪んでいるということにはならないはずです。

そして仮にマスコミというレンズを通すと実態がどうしても歪むとしても、たとえよく見えないレンズを通じてでも、はじめから何も見えないよりマシということは多いのではないでしょうか。

昨今、民主党の輿石東幹事長をはじめ、政治家のマスコミ報道批判が勢いを増しています。繰り返しますが、マスコミのあり方や報じ方に多々、問題があることは十分認めます。それでもなお、警戒してほしいのは、こうしたマスコミ批判の背後には、情報発信を自分たちの都合のいいように操りたい人たちの意図と思惑もあるということです。

もとより私はマスコミの代表でも代弁者でも何でもないし、食べていける別の職があるなら、この仕事にそれほど未練もありません。こういう人に嫌われ馬鹿にされる仕事よりも、接する人に喜んでもらえるような仕事を選びたかったなあとも思います。むしろ、この世界に20年以上、どっぷりつかってきただけに、問題点も限界も実感していますから、今後もそう状況がよくなるという楽観はしていません。

おそらくこの先も批判され、馬鹿にされ続けるであろうマスコミではありますが、かといって、マスコミがなくなったら世の中がよくなるというような極論には、どんな根拠と見通しがあるのだろうと、不思議でなりません。

同様に、ぶらさがり取材がふだん、冷静にみてばかばかしい内容が多かったり、見ていて歯がゆいことが多かったりするとしても、じゃあ、なくなった方がいいかというと大いに疑問なわけです。

ただでさえ、民主党政権は情報隠蔽体質が強く、何かと不透明で密室を好む政権です。そういうときに、首相が密室に逃げ込み、国民への説明から逃げることを助長するようなことには、たとえその方がこっちも楽であったとしても反対せざるを得ません。マスコミはいくら批判されても仕方がない負の実績をもっていますが、政治家だって放っておけばどんな独善・独裁に陥るか分からない危うさがあります。

牽強付会のそしりを覚悟で言えば、三権分立の原理だってそうであるように、互いに不完全で怪しげな存在だからこそ、互いに牽制し、環視しあう必要があるわけで、片方がひどいからといって、もう片方がひどくないということにはなりません。国民がマスコミを批判し、同様に政治家も厳しい目で見てこそバランスがとれるのではないかと思うのです。

結論は、首相にとっても記者にとってもめんどくさいことながら、やはりぶらさがり取材は続けた方がいいということです。もちろん、もっとうまいやり方、新しいルールが生まれたならばそれはそれでかまいません。ただ、現時点ではこう考える、ということをちょっと書いてみました。

杜父魚文庫
| 阿比留瑠比 | 06:30 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







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