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遙か西を観ることの重要性 西村眞悟
昨年秋以来、中国の尖閣侵略に関して求められて講演をする機会がよくある。その際、単に東シナ海の尖閣周辺だけの中国の行動を説明するのではなく、遙か西のパキスタンと中印国境からインド洋、アセアンの海そして南シナ海を経て東シナ海へと説明することにしている。

我が国は、ユーラシア大陸の東端のさらに東の海洋国家である。しかし、東シナ海に出てきている中国や、それに連動するかのように国後・択捉そして樺太またオホーツク海と日本海に出てきているロシアは、共に西ではユーラシア大陸のアジアの西端のイスラム圏に接している。当然に、中国やロシアの東での行動と西での動向は連動している。

しかるに、我が国の関心は、位置している極東での出来事には向かうが、なかなか西方に及ばない。

我が国の防衛白書も、インド洋の西端から我が国に延びるシーレーン(海の道)の確保という観点は乏しく、中国海軍の動向を東シナ海を図示して示すのみである。

仮に、南シナ海をも図示して示せば、中国海軍が南シナ海を制圧していよいよ東シナ海から西太平洋を扼すために北上して来たことが一目瞭然なのにと残念に思う。

しかし、かく言う私も、ユーラシアの西の地域の実感に乏しい。ただ、平成六年頃よりミャンマーをよく歩いたことが、今非常に役に立っていると感じる。

何故なら、十五年以上前から、中国が西の印度周辺で何をやろうとしているのか、そのきな臭い匂いを嗅ぐことができたからである。

概略を言えば、中国は国境紛争を抱えるインドを封印するためにパキスタンに核とミサイルを供与し、ミャンマーを通じてインド洋に進出しようとしていた。

そして、こともあろうに、日本とアメリカは、親日国のミャンマーを中国に追いやっていたのである。そのミャンマーを共産中国に追いやる口実は、「民主化を弾圧する軍事政権はけしからん」というきれい事。これによって日本やアメリカは、最貧国のミャンマーを制裁し援助をストップしていたのだ。

そして、このきれい事の結果が、ミャンマーを飲み込むが如き中国のインド洋への進出つまり我が国のシーレーンの危機と、さらに現在の東シナ海と西太平洋への進出を招いている。

仮に私が地域研究の対象として、十七年前にミャンマーを選んでいなかったら、東シナ海まで現実に起こってきた海洋への中国軍進出の連鎖が、我が国の愚かなミャンマーへの援助停止に発していることを実感できなかったであろう。

そこで、本日の産経朝刊の記事について書いておきたい。まず、エジプトの反ムバラク騒乱に関しては、大きく、「アメリカがムバラクの即時退陣を封印した」旨報じられている。

そして、小さく、ミャンマーの反政府活動家のアウン・サン・スーチー女史が、「欧米はミャンマーに対する経済制裁を維持すべき」、つまり、援助するなと叫んでいる、と報じられている。

エジプトに関しては、アメリカのオバマ政権が、即時ムバラク退陣というエジプトにおける街頭の「民主化要求」に乗ることが、中東の情勢にとってさらには世界の安定にとって如何に危険な事態に陥りかねないか、理解し始めたことを示している。

「遅いなー、オバマの兄ちゃん」、と思はざるを得ない。ところで、新聞にでは強調されていないが、エジプトが騒乱から内戦状態そしてイスラム過激派の勢力拡大に一挙に流れないのは、冷静で中立的な組織的行動を維持している軍が存在しているからである。

軍は、ムバラク大統領の、名誉と威厳のある退陣を確保しようとしている。アメリカも即時退陣といういつもの「内政干渉」を引っ込めてエジプトの軍を支持し見守るべきである。

エジプト情勢次第では、中東で核を使った戦争が起こりかねないのであるから。そしてアメリカが中東で釘付けになれば、アジア、アセアン地域で中国の傍若無人の覇権が完成し、アメリカのアジアにおける最大の国益と世界戦略が空中分解する。

次に、ミャンマーのアウン・サン・スーチー女史のことであるが、「まだ言うとるのか、この女史は、もううんざりだ」、というのが率直な感想である。

彼女の自国に対する経済制裁の要求によって、どれほどミャンマー国民が苦しみ、中国がミャンマーを飲み込むに任せる事態を作り上げてきたのか。

そして、これによってインド洋とアセアン地域に、如何なる不安定要因が生み出されてきたか。最も、このスーチーという教条的でバランスの崩れたイギリス女の要求に乗って、大切な親日国のミャンマーに援助停止と制裁を続けた我が国外交が劣悪だったのだが。これを身から出た錆という。
 
とはいえ、スーチーは、イギリス仕込みの己の要求である軍事政権を倒し民主化を実現する為には、ミャンマー民衆を貧困のどん底にあえがせることが最良の方策だと思いこんでいる。

一種の原理主義、過激派である。最近拘置所で亡くなった十四人の同志を殺した連合赤軍の永田洋子を連想する、というより同じだ。

私は、十年ほど前に、スーチー女史が、日本のミャンマーの子供達に対するポリオ生ワクチン接種という人道援助を非難したので、現実に接種が行われている田舎の村を訪ねたことがある。

その村では、多くの若いミャンマーのお母さんが、赤子を抱えてにこにこ笑いながらワクチンの接種を受けていた。村長もお母さんも、日本の援助に感謝してくれていた。村で大歓迎を受けた。

しかし、スーチーは、首都ヤンゴン以外のミャンマーを未だ訪れたことがない。そもそもミャンマーでは育っていない、イギリスで育った。従って、ミャンマー民衆の思いと生活状況に関心がなく、ただ教条的に日本の援助を非難しているだけだと思い知った。

さて、イギリスの分割統治という植民地支配がもたらした少数民族との武力紛争と民衆の貧困という結果を背負うミャンマーが、統合を維持してきた理由の最たるものは軍の存在である。

ミャンマーは、「軍事政権」だからミャンマーとして存続してきているのだ。軍服ではなく背広を着ていても一党独裁の悪い政権はある。例、北朝鮮、中共。

そのミャンマーの「軍事政権」が選挙を行い民主化の方向に努力している。我が国は、スーチー女史の教条主義に乗るのではなく、アメリカを説得し、現政権の努力を支援して見守るべきである。

本日の朝刊に現れたエジプトとミャンマーの記事に触発されて、軍の存在が国家を維持しているという視点から本稿を書いた次第である。

教条的に、軍=悪、軍=非民主、という固定観念で状況を見て、さらに自国の軍をも軽視していると、ミャンマー制裁が中国の力を増大せしめたという連鎖でも明らかなように、国家戦略がなくなり、いずれ、過激派かもしくは共産主義独裁国家の制を受けるに至る。

杜父魚文庫
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