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軋む『米中』を看過ごす『民主党外交』で沈む日本  桜井よしこ
民主党代表選挙の虚しさは、いずれが勝利しても日本の展望が開けないことだ。教育も、外交も、安全保障もまともに論じられることなく、バラ撒き政策を主要な争点とする卑小な議論のまま、投票になだれ込もうとしている。

たしかに普天間飛行場移設についての質問が出て、小沢一郎氏は日米合意の見直しともとれる発言をした。菅直人首相はそれを批判したが、行き詰まった普天間問題の解決についての展望は全く示していない。

両氏は日本周辺の国際環境がいま、地殻変動を来たしていることに、殆ど注意を払っていない。アジアで進行中のこのダイナミックな政治、安全保障上の変化を読みとれないこの政権は、間違いなく大潮流の変化の渦に巻き込まれ、浮上出来ずに、日本国全体を沈めてしまうだろう。

日本周辺で起きつつある現象は「中国対その他諸国の対立の構図の出現」と表現してよいだろう。無論、どの国も中国との対立を望んでいるわけではない。むしろ、理を説いて、問題解決への中国の理解と協力を得ようとする慎重姿勢が、各国の対中外交の基調である。そうした中で、6月5日、シンガポールで英国の国際戦略研究所(IISS)が主催したアジア安全保障会議での、ゲーツ米国防長官の発言は米国の姿勢と考えを正確に伝えていた。

長官は「米国の最重要の義務はアジア安全保障の再確認」だと断言し、「効率的で継続可能な米国の防衛政策は、如何なる形の紛争にも対処し得る十分かつ最大限の軍事力によって支えられる」「この軍事力を配備し、必要ならば行使する決意を明示すること」が、米国のアジアへのコミットメントだと述べたのだ。

長官はまた、南シナ海について、深刻な懸念を表明した。米国は、「どちらか一方の側に立つものではない」としながらも、「航行の自由を妨げる行動や力の行使には反対する」と明言した。

中国にとっての真実

明らかに中国を念頭に置いた発言である。ゲーツ長官に続いてクリントン国務長官も、7月23日、ベトナムのハノイで開催されたASEAN地域フォーラム(ARF)で、スピーチの半分近くを割いて、南シナ海への米国のコミットメントを強調した。

「すべての関係諸国が抑圧されることなく領土領海問題を外交的に解決すべきである」「航行の自由、アジアの海域へのアクセスの自由、南シナ海における国際法の遵守」に米国は強い関心を抱いているとクリントン長官も語った。南シナ海はすべて自国の海だと主張する中国への強い牽制である。

対して、中国の楊潔篪(ヨウケッチ)外相は、米国は南シナ海問題を政治問題化すべきではないと、強く反発した。中国は、今年3月、南シナ海を、台湾、チベット、ウイグルと同じく、中国の「核心的利益」と位置づけていることを米国に伝えている。台湾同様、南シナ海への他国の如何なる介入も許さないと宣言したのだ。

南シナ海は決して中国だけの海ではない。しかし、中国にとっての真実は、自らが決めたことなのだ。国際法もASEAN諸国がそれによって暮らしてきたそれまでの島々の領有権も、中国の自己中心の主張が木端微塵に吹き飛ばしてしまう。事実、中国は南シナ海で昨年以来、顕著に排他的な動きを取り始めた。たとえば夏季を禁漁期とした。ベトナム政府は烈しく抗議し、6月、ベトナム漁船が漁に出た。中国はベトナム漁船を拿捕し、漁民を勾留した。8月4日にもベトナム漁船を拿捕した。9月にはベトナム漁民を銃撃した。

今年6月22日には、南シナ海の、インドネシアが自国の排他的経済水域(EEZ)だと主張してきた海域で一触即発の事態が発生した。「毎日新聞」(7月27日)一面トップの記事が中国の手法を生々しく伝えている。同記事によると、この日10隻以上の中国漁船団がインドネシアのEEZ内で操業を始め、インドネシア警備艇が1隻を拿捕した。30分後、中国の漁業監視船が駆けつけ、解放を要求。軍艦を改装した排水量4,450トンの大型船の出現にインドネシア側は漁船を解放した。しかし、インドネシア側は翌朝、海軍の応援を得て、再び中国漁船を拿捕した。ところが中国側はインドネシア海軍の出現に全くひるまず、その圧倒的力を誇示してインドネシア側に再び譲歩させ、漁船を解放させたというのだ。

中国は現場海域で、暴力装置としての海軍力を用いて断々固として諸国を脅かす一方、この海を自国領とするための法律戦も展開してきた。

まず、1992年2月の領海法制定で、南シナ海も東シナ海も中国領だと定めた。このとき、マレーシアは強く抗議し、国軍参謀長は「戦争止むなし」と決意した。しかし、中国の軍事力の前に、マレーシアが膝を屈した。中国領だからという理由で、中国政府は昨年11月、西沙諸島の2つの島に中国共産党組織の村委員会の設置を決めた。12月には島の管理強化を定めた「海島保護法」を制定した。

卑小な権力争い

中国の問答無用の南シナ海進出にASEAN諸国も、インドも、豪州もニュージーランドも、強い警戒心と怒りを抱いている。彼らも、ベトナムのように自力で中国軍に対抗し、自国の漁民や国益を守る気概をみせてきた。しかし、南シナ海の航行の自由と安定に米国の協力が欠かせないのは明らかで、ゲーツ、クリントン両長官の発言は、そうした国々の要請に応えたものだ。

かといって、中国が大人しく引き下がる気配はない。クリントン演説の3日後、中国は南シナ海に、東海、南海、北海3艦隊の主要艦船を集合させ、多兵種協同の、異例の実弾演習を実施した。また、中国はすでに米軍の西太平洋前方展開拠点であるグアムの基地を攻撃出来る長距離爆撃機を開発中である。

ゲーツ長官の言葉にあったように、米国は最大限の軍事力を以て抑止力とする。中国の実弾訓練と同時期、米軍と韓国軍は、3月に発生した北朝鮮による韓国の哨戒艦撃沈事件をうけて、日本海で4日間にわたる合同軍事演習を行った。

米国は、かつての敵ベトナムとも協力を顕著に強化するべく、安全保障、経済、環境など広範囲の協力関係を築く方針を発表した。

中国はその異常な軍拡で、台湾有事の際に米軍の接近を阻止する力を構築中だ。米軍の接近が阻止される場合、危機に陥るのは、台湾だけではない。そのことをASEAN諸国は肝に銘じているために米軍との協力体制の構築に余念がないのだ。

短・中距離ミサイルによって、中国の射程内にすでに入っているのがわが国だ。日本こそ安全保障に鋭敏でなければならないいま、菅首相と小沢氏が国益を忘れた卑小な権力争いを展開する。日本の将来は暗い。(週刊新潮)

杜父魚文庫
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