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チャイナ・エコノミーの闇(その2) 宮崎正弘
天地が震動する大変化の予兆が聞こえてきた。上海万博前後、中国経済は驚天動地の恐慌に見舞われる可能性が高い。

2010年、中国が上海ショックに震撼するであろうと予測する理由は次のとおり。

第一は国家権力(というより一党独裁の)の強さ、土地の所有はすべて国家に帰属し、個人住宅は75年の土地使用権利。農地は30年とも50年とも言われるが法的淵源が曖昧のまま。

西側のように立ち退き保証とか、区画整理に要する時間的ロスがない。だから民主化とは無縁のプロセスで権力側が一方的にする政策決定があれば、高速道路や地下鉄が工期三年でできたりするのだ。

不動産投資は土地ではなく「箱もの」に対して行われる。西側の住宅市場との単純な比較ができないのは、このポイントにネックが潜む。

上海は万博開催が決まってから、つぎつぎと地下鉄新路線工事を開始し、いまでは東京の営業キロを越えて世界3位に躍進した(東京301キロ、上海340キロ)。上海がロンドン、NYにつぐ地下鉄大国となった。

上海に限らず広州でも南京でも深せんでも、幹線道路を露天掘りして地下鉄を敷設し、周辺の交通渋滞は一切構わず、また土地収用は権力がきめたら、それでお終い。成田空港の土地買収がまだ決着が付かないことと比較しただけでも、彼我の相違が飲み込める。本質は何清蓮がいみじくも指摘したように「権力の市場化」であって、市場経済ではなかった。

したがって経済成長の速度が信じられないほどに速かった。

第二は激甚な速度で達成された都市化(都市集中という歪み)の恐ろしさを誰も言及しない不思議さ。過去十年のあいだに地方から都会へ流れ込んだ労働人口、学生の移動は一億人以上である。日本の人口に匹敵する夥しい人々が都市部、それも沿海部に集中すると、そこには都市の特有の空間と生活圏も広がり、郊外にマンション群、都市中央に豪邸、ビルは摩天楼の林立となる。

日本同様に大家族制度は内部から崩壊し、かといって都市部では同じ郷里の者同士があつまって暮らすから街と街の対立、新旧住民の対立がおこり、若者の孤独をうみ、さらには一部地域がスラムかする。安全面では犯罪が増え、登録住民の把握もままならなくなり治安悪化に拍車がかかる。

一方、食糧という生活基盤に大変化がおこり、パン食なども発達するので中国は穀物を輸入するようになる。都市災害の備えはできていない。

最大の問題は水である。北京の砂漠化はゆっくりと、しかし半世紀後に砂に埋もれる危機に直面している。日本に黄砂を降らせている。

水が枯渇すると人間は生活できないために、次の民族大移動が起きる。中国のまつりごとは食糧と水利。次に軍。福祉とか社会保障とかは、為政者にとって寝言のたぐいでしかない。

▲中国とて2020年には高齢化社会に突入する

第三は1979年から開始された「一人っ子」政策の弊害だが、すでに人口動態に顕著な変化が現れ、フランスの人口学者でソ連崩壊を言い当てたエマニュエル・ドット風に言えば、ソ連が人口問題で瓦解したように中国も世代間の価値観の対立などで社会調和の崩壊の速度を速める。

子供は甘やかされて育ち、小皇帝気取り、ハングリー精神におとり、えっ、この人も中国人というようなふにゃふにゃ世代、日本の草食系男子のたぐいが激増している。

若者の服装、仕草、流行をみていると日本と殆ど変わらないほどに軽薄である。

大学進学率をみれば、典型の予兆がある。文革まで大学へいける若者は希有の存在だった。いまでは駅弁大学が乱立し、資格をえる各種学校も花盛り、誰もが大学へ進学する風潮となり、若者の価値観と旧世代との断絶は見えない対立をもたらしている。

婚前交渉、同棲など嘗てない社会性格上の価値の紊乱が見られ、この結末は現在燃えさかる国家としてのエネルギーが斜陽になる前兆といえはしないか。

第四は貧富の格差の天文学的広がりが新しい天国と地獄を現出させてしまったこと。ひとりあたりのGDPが四千ドルなどと豪語しているが、地方の貧困地帯と上海の豪邸族との所得格差は百万倍以上。平均をとっても広州の所得(ひとりあたり一万ドル超)と最貧の貴州省の田舎のそれは300ドル前後。

工場の全従業員の給料を合わせたより多い役員報酬をえる国有企業幹部の共産党員はBMWや黒塗りリムジンを乗り回し、数人の愛人を囲い、毎晩のように豪華な食事会。酒池肉林にふけり、貧困にあえぐ従業員が明日食べる食糧がないと訴えて労働争議を起こすと軍隊をよんで弾圧する。

「貴権主義」とよばれる所以だが、権力者はますます冨み、庶民はますます貧乏に陥るにもかかわらず政治はこの矛盾の解消には意欲がない。格差と弾圧への怨念の広がりは経済学の統計数字には現れない。韓非子が言ったように「それまつりごとの民に優しきは、これすべて乱の始まりなり」。

▲こんなときに何故「上海ディズニーランド」なのか?

第五は過剰設備投資のつけが回ることに深刻な懸念が表明されていないのも不思議である。鉄鋼、塩ビ、パルプなど工場の生産施設過剰という生産現場のみならず並外れた過剰投資は、たとえば遊園地、テーマパーク。全土あちこちに作りすぎ、投資資金が息切れして工事が続行できず、途中で工事中断の残骸は北京郊外万里の頂上付近にもある。

たとえば世界景勝地展覧会とか蝋人形館とか、同様なものが深せんにも蘇州にも、上海にも、廃園の遊園地、水族館。テーマ館。(例外は反日記念館で、これは国家予算管理)。長距離バスに乗ると高速道路の両脇に、廃墟に近い遊園地の残骸の夥しさを目撃できる。
 
にもかかわらず上海にディズニーランドの開園が決まった。空前の動員を予想するエコノミストが存在するけれども香港のディズニーランドが失敗におわりつつある理由はアトラクションの少なさ、入場料金の高さにあり、上海のそれ(第一期工事分)は、その香港の規模より小さいという。となると近未来の予測は言うまでもないだろう。

すでにマカオにおけるカジノ・ホテルの乱立とラスベガス系豪華ホテルの連続破綻がしめすようにサービス分野でも過剰投資のツケが回っているのである。

第六に技術の偏在と独走技術の少なさ、雇用のミスマッチが挙げられる。十二月に英語検定試験が各地で行われたところ、「カンニング」が横行したという中国からの報道があった。資格さえ取得すれば就職に有利、可能ならば国営企業より外資系にいきたいという欲求は強烈で、黒龍江省の山奥の町にも日本語学校があって驚いたことがある。日本企業が存在しない町だったから。

理由を聞くと大連とか瀋陽あたりの日本企業で働きたいというのが彼らの人生の夢だということが分かった。換言すれば国有企業に集まるのは太子党、共産党幹部の推薦などが必須の条件、いや外資系企業ですら地元共産党幹部の強引な推挙があれば、採用せざるを得ない。
 
コネがなくとも優秀な人材がおもむくのは、けっきょく技術が集中する軍事産業かIT関連、コンピュータソフト、電子部品関連企業となり、技術の偏在は、全体の産業と経済の発展に影響を与えるだろう。

くわえて海賊版が横行しても独自技術がなく、中国独自のブランドがあまりにも少ない現実をどう考えておくべきだろうか?

▲カジノに熱狂しても市場の発展には関心が薄い

第七に金融システムの未成熟と株式市場の投機的熱狂の破綻がある。既に述べてきたように中国は赤字を補填するための国債を発行するが、これまでは国内で消化できた。

今後、海外の投資家にも中国の赤字国債を購入してもらうことになるが、リスクが高い上に中国経済そのものへの信用がない。したがって金利を高く設定せざるを得ず、現在のところ香港で起債されたのみ。将来、欧米や日本の債券市場でも売買を可能とするには、国際レベルの金融システムへの脱皮が急がれる。

株式市場とて東京市場より売買高が多くなった等と自慢しても、決済システムが近代化されておらず、企業情報の公開は滅茶苦茶、インサイダー取引がまかり通り、要するに中国人同士の鉄火場という域を脱出していない。

かくて庶民は毛沢東神社に詣でる。毛沢東が守銭奴の象徴になり、庶民にお守りに化けた。
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2009/12/200912270256.shtml

これらを勘案して中国経済の行く末を予測すれば、現在まで続いた奇跡的繁栄の持続はたいそう難しいのである。

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| 宮崎正弘 | 12:38 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







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