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誤報だった「ワクチン1回接種」 石岡荘十
<新型インフルエンザの国産ワクチンの接種回数について、厚生労働省の専門家会議は16日、免疫が上がりにくいとされる「1歳から13歳未満の小児」以外は、原則1回接種とすることで合意した。来週にも1回接種の方針が正式決定する見通し>(産経ニュース2009.10.17 02:00)。この記事を読んだ読者は、ほっとしたに違いない。

<2回接種を想定した場合の2700万人分から大幅に増加し、4000万人分の国産ワクチンが確保されることになる。輸入ワクチン(4960万人分)が使われる予定だった高校生や高齢者にも国産ワクチンが使われる。また、輸入品の接種効果も調査中で、こちらも1回で効果が確認されれば、国内生産分と合わせ全国民にワクチンが行きわたる計算となる>

とご丁寧にワクチン不足が解消したような明るい見通しを付け加えてあったからだ。しかし、この記事は誤報であった。そのことが明らかになったのは、3日後のことだった。

事の次第は、20日付け朝刊で各紙が一斉に報じている。

産経新聞の見出しは「突然の政務官介入---方針は二転三転」。つまり足立信也政務官が突然、1回接種に異論を唱え、口出しをしたお陰で結論が変わり、先延ばしにされというニュアンスだ。  

19日午後9時20分、厚労省で専門家を集めた意見交換会(ヒヤリング)が急遽、公開で開かれた。この模様を伝える記事で各紙は「16日まとめた1回説は世界保健機関(WHO)の事務局経験者、つまり権威のある委員の結論なのに、政治家が横車を押してくるなんて、けしからん」と言っているのである。

<厚労省のある幹部は、「脱官僚を掲げる民主党としては、医系技官と一部の専門家で決めた内容が気に入らなかったのだろう」と語った>(産経新聞)と誤報の言い訳をするように、官僚の愚痴を紹介している。
ところが、フリーマガジン「ロハス・メディカル」がウエブ版でヒアリングのやり取りの一部始終を明らかにした記事(下記URL)を読むと、上記の記事は明らかに、会議での議論を捻じ曲げ、的外れなものであることが分かる。

http://lohasmedical.jp/news/2009/10/20010545.php

「原則1回接種」と報道した最初の各紙の記事は、専門家会議での合意事項を(記者クラブで?)役人に聞いて、これを記者が厚労省の最終的な方針として受け止めて報道したものであることが分かる。

足立政務官は「リザルトとディスカッションがゴチャ混ぜになっている」と述べている。議論の途中での発言(ディスカッション)と結論(リザルト)を混同しているというのである。単なる意見交換会の話し合いを、決定事項として報道したことになる。つまり、冒頭で紹介した記事は誤報だったのだ。

それだけではない。

19日の政務官によるヒアリングの席で、医系技官が説明した「1回接種」について自治医科大学の森澤雄司准教授は、医系技官の提案には科学的なエビデンス(根拠)がない」と述べているが、産経新聞にはこのような批判的な発言は一言も紹介されていない。

ヒアリングに出席した委員の中で、16日の専門家会議で「1回接種」を認めた尾身茂自治医科大学教授は、元医系技官。WHOでの勤務経験もある人物だが、これまでにも「明らかな失策」という評価が定着している「水際作戦」についても、当時、記者会見で肯定的な発言をし、医系技官に肩を持った経緯がある。なんとなく臭う。彼のことを“御用学者”という専門家もいるほどだ。

限られた年代(20〜50歳)の健康な人を対象にした小規模な臨床試験結果を根拠に、「1回接種」を全体に適用できると判断する医系技官の主張は、「事実」と「推論」の区別が出来ていない結論だ。医師の教育課程でみっちりトレーニングを受けていないのではないか、あるいは、医系技官の多くは、初期研修を終えて、そのまま行政官となっているため、科学者としてのこの基本を失ってしまったのかもしれない。まともな医学トレーニングを受けた医師の提案とは思えない。

「はじめ、医系技官の行動は保身のための“確信犯”ではないかと思っていたが、判断の前提条件を3重にも4重にも間違えている。

以前は確信犯的にやっていると思っていたのだけれど、最近は本当に知らないんじゃないかと思うようになった」と委員の1人はあきれ返っている。

さて、署名入りで誤報をした記者である。役人に聞いたことをそのまま記事にする役人主導時代のクセが抜けきっていないのではないか。他の新聞もそうだ。16日の会議が終わったのが午後2時。その会議の結果がその日の夕刊に載るのはおかしくないか。

誰かが情報を事前にリークしたに違いない。役人が小声でささやいた情報が政府の方針とはならない時代なのである。その気になってとばし記事を書いたり、偏向したりすると、医療関連では特に電子メディアの記者も細かく目を光らしていて、すぐ底が割れる。

新政権にはいろいろな批判がある。しかし、副大臣や政務官の働きぶりはこれまでなかったものだ。目立ちすぎという声も聞こえるが「政治主導」を楽しんでいるようにさえ私には見える。

医療関連では、足立政務官がすでに医系技官の天敵の様相を見せている。参院一期目とはいえ、外科臨床歴23年、助教授の経験もある政務官はそうざらにはいない。これから、官僚とのバトルが見ものである。
          
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