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駕籠に〈乗る人〉をどう絞り込むか 岩見隆夫
ロッキード判決選挙が行われたのは一九八三年十二月十八日だった。二カ月前に田中角栄元首相は東京地裁で懲役四年の実刑判決を受けている。

自民党は二五〇議席しか取れず惨敗、中曽根政権は薄氷の政局運営を強いられる。ところが、刑事被告人の田中さんは二二万票の大量得票、政界は絶句した。

この選挙には、もう一つエピソードがある。田中さんの秘書を長年つとめ、その後政治評論家に転じて五年前に死去した早坂茂三さんが『オヤジの遺言』(集英社)という著書のなかで書いている。

〈話題を呼んだのは私と旧知の作家、野坂昭如の殴り込みだ。雪深い旧新潟三区で野坂を先頭に報道陣の車二、三十台が続いたのはいいが、よそ者で道順がわからない。立往生するたびに警察や消防の世話になる。

これを聞いた角栄いわく。
「風邪をひくぞ。あったかい肌着を届けてやれ」

それを用意して私は親しい長岡駅前ホテルの支配人と連絡をとり、午前二時ごろ人目を避けて、高名な作家の部屋を静かにノックした。主人の口上を述べ、肌着類を手渡した。

「角さんが、これをおれに……」
 野坂の目がうるんだ。

「あれで本当に助かった。もう選挙はやらないよ」
お礼の電話がきたのは、彼が落選して一カ月後である。昔の選挙を思えば、往時茫々夢の如し……〉

選挙のたびに、二十五年も前のこの話を私は思い出す。異能鬼才の田中さんは特別の存在ではあったが、野坂が同じ選挙区で争う相手であることに違いはない。中選挙区時代には、こんな人間臭い話が転がっていた。

だが、小選挙区制に切り替わってから、ギスギスと潤いがなくなった。一つの議席をめぐって、毎回のるかそるかの闘いである。選挙中だけでなく、政治家にも政治全体にもゆとりが失われた。

それが極まったのが、今年の衆院選である。逆風に悩む自民党の候補者は、自身の勝敗と同時に、

〈政権を失うのではないか〉
という恐怖を日々募らせ、風に乗る民主党も、

〈本当に政権交代までいくのか〉
と不安のなかで暮らしているのだ。異様なまでの恐怖と不安の衝突は、かつてなかったことである。

しかし、この政情の不安定は悲劇的なことではなく、戦後政治の大きな変わり目ととらえるべきだろう。

〈一〇〇年に一度〉は世界的金融危機だけでなく、日本の政治にも起こり始めている。

すべての変化の起点が衆院選の結果であることは言うまでもないが、結果についてはまったく予断を許さない。つい先日までは、

〈自民、民主両党とも単独で過半数(二四一議席)獲得はない。どちらが比較第一党になるかの勝負だ〉

と言われていた。しかし、最近は民主党の単独過半数がありうる、という見方が増えている。麻生政権の支持率と麻生太郎首相の人気急落が主な理由だ。

◇政界をあげて模索する駕籠(政権)の新しい形
だが、民主党が単独過半数を確保するには、現有の一一三議席を倍増しても足りないし、その時、自民党(現有三〇四議席)は一二〇議席近くを失う勘定になる。そこまで両党に力量の差はついていない、と私は思うが、選挙だけはやってみなければわからない。両党のリーダーの間で、

「結局は政界再編だろう」
という声が目立ってきたのは、自民・公明両党連立政権の存続が困難になってきたこと、だからといって、一気に民主党中心の野党連立政権誕生の可能性はそれほど大きくないこと、この二つの予測が前提になっている。

そうなった場合、再編はどんな形でやってくるのか。いま、政界はあげてそれを模索中だ。やはり、田中角栄さんが残した、

〈駕籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋を作る人〉
という言葉がよみがえる。駕籠を担ぐ人、草鞋を作る人がいてはじめて乗る人(首相)が定まる、という政権取りの現実をうまくたとえたものだ。田中さんは乗る人にもなったが、ある時期、キングメーカーとして乗る・担ぐ・作る人たちのすべてを取り仕切った。だが、それは自民党という一政党内の争いごとだった。

こんどは、まず駕籠(政権)の新しい形を決めることから始めなければならない。担ごうとする人、その人の草鞋を作ろうとする人たちが日夜、このテーマで思い悩んでいる。どんな形にして、その上にどんな旗を立てるか。

最近、やたらに生まれる自民、民主両党内のグループ、党派を超えた議員連盟あるいは頻繁な夜の会合は、すべて新しい駕籠づくりのための準備、布石とみていい。駕籠は一つとは限らない。二つか三つか、もっと多いかもしれない。

それと並行して、駕籠に乗せる人(新首相候補)の絞り込みも進めなければならない。政権維持に失敗した麻生さん、政権交代に至らない小沢一郎さんを乗せる人にするケースはほとんどないだろう。

では、だれになりそうか。とにかく、衆参両院の多数派から支持を得て新与党勢力を形成し、ねじれ解消によって政治の機能を回復させるのが最大の眼目だから、それにふさわしい、広く党派を超え〈支持されやすい〉人物ということになる。

すでに、K、H、S、I、Oなどの名前が取り沙汰されているが、まだ絞られてきたという段階ではない。先日、某党の実力者が、

「救国の大同団結のため、とりあえず緊急避難的に、ということなら、Yだろう」

と私に漏らした。なるほど、Yなら担ぐのに抵抗感が少ないから、駕籠に乗せやすいかもしれない。だが、アクがないかわりに、パンチに乏しい。この絞り込みは容易なことではなさそうだ。

いまの政界には、角さんのような強力な仕切り役がいないから、大掛かりな舞台回しは難渋を極める。しかし、そんなことは言っておれない。待ったなしだ。(サンデー毎日)

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