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患者様とは慇懃無礼 渡部亮次郎
20年近く通院している民間病院で、何時ごろからか患者を呼び出すのに「さん」から「様」になった。患者をそんなに持ち上げなくてもいいじゃないか、と思っていたら、これはどうも例のインフォームド・コンセントとやらと関係が有ることに気付いた。

インフォームド・コンセント (informed consent)(以下、IC) とは、医療行為(投薬・手術・検査など)や治験、人体実験の対象者(患者や被験者)が、治療や実験の内容についてよく説明を受け理解した上で(informed)、治療に同意する(consent)事である。

説明の内容としては、対象となる行為の名称・内容・期待されている結果だけではなく、副作用や成功率、予後までも含んだ正確な情報が与えられることが望まれている。

ICの必要性を勧告したヘルシンキ宣言は、ナチス・ドイツの人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領をもとにしている。

日本では1997年(平成9年)の医療法改正によって、医療者は適切な説明を行って、医療を受ける者の理解を得るよう努力する義務が明記された。

説明無き治療で害を与えた場合、刑法上での傷害罪や殺人罪に当たるという主張がある。一方で医療行為によって健康を増進させることは善意と根拠に基づいて法律で保護された行為であって傷害罪の対象にならない、という意見があり、対立している。

このような中で、同意のない治療を行った場合に損害賠償が認められた判決は、1980年代から相次いでいる。

このあたりから患者様という呼び方が始まったようだ。急に患者を大事に思いはじめたわけでも、尊重し始めたわけでもないのに、「様」をつければ事が済むという考えは、昔流で言えば「猪口才な!」と言うことになる。

猪口才(ちょこざい)=差し出がましいこと。生意気なこと。小利口。(広辞苑)。三省堂の新明解国語辞典第4版では「ちょっとした才能しか持っていないことを軽蔑する意味。生意気」とある。

最近は撤去されたが、昭和39年11月、佐藤栄作氏が総理大臣に指名され、昭和天皇から認証されると言うので、車で追いかけた。ところが、皇居内に入ったら「記者団はこちら」と案内された場所(屋外)には「車夫馬丁」溜という看板のかかったところだった。

また、外務省では赴任する大使がつれて行くシェフのことを「従者」と長らく言っていた。随分、人を見下すものである。天皇陛下に仕えるのは庶民より一段上の職業だから、庶民を見下さなければ、自分を偉く見せられないと言うわけだ。

病院では医師が絶対。それを補佐する看護師は従者扱いされるものだから看護師は往々にして患者を見下し、ぞんざいな口を利いて権威を保とうとする。患者は医師はもちろん、看護師の言いなりだ。

それが突然、医療法が改正されたからと言って、患者の呼称だけを様に変えたって、本心が変わってないのだから、慇懃無礼(いんぎんぶれい)そのもの。慇懃無礼=うわべは丁寧なようで、じつは尊大であること。(広辞苑)

厚生大臣や外務大臣を何回も務めた園田直氏は、インフォームド・コンセント時代の前、医者と学校の先生と銀行員は余程注意しないと馬鹿になる。弱い者、無学なものばかりを相手に威張っていられるからだ、と言っていた。

ついでだからICの問題点などを捜そう。従来の医師・歯科医師の絶対的権威に基づいた医療を改め、患者の選択権・自由意志を最大限尊重するという前提に基づいている。こんな事は患者も医師も同じ人間。対等なのだ。むしろ患者あっての医師なぐらいなのだから大昔から当然の話だったはず。

説明する側は検査や治験の利点のみならず、効用の原理を平易な言葉で説明し、副作用や合併症などの予期される危険度や、他の方法(alternatives)についても十分な説明を行い、同意を得る必要がある。

また、同意をいつでも撤回できることが条件として重要である。こうすることで初めて、自由意志で治療または実験を受けられることになる。

癌の告知の際、日本では、家族に病名を告げるが本人には告げない、というのが長く続く慣例であった。これはICの概念に反する。実際ICの普及とともに癌の告知率は大きく上昇した。

一方で、癌の場合に病名を告知して欲しくないと考える人はやはり存在し、実際に告知したことで訴訟になった事例もあるため、ここでもICの適正な運用について議論が出ている。

患者に十分な理解力・判断力がある場合でも、数分や、長くても数時間のICでは伝わりきらない情報はあるし、患者は最終的に、少ない知識を基にして判断・同意を行わざるを得ない。

また、非常に稀な事象や軽微な事象を敢えて説明することが治療の本質をぼかし、患者の満足度低下や不安の増大をきたし、治療の機会を逸する可能性も指摘されている。

判例を見ると、10%を超える死亡率が予測された手術に対して事前に死亡率を伝えなかった過失が認定された例(東京高裁平成13年7月13日)がある。

一方、「死」という言葉を直接使わずに説明したことに対して「重大な心理的影響を与えかねない」として過失が否定された例(東京地裁平成15年6月27日)もある。

患者と医療従事者の双方の立場を守るために存在し、十分な認知を得たICであるが、日常の運用は両者の良心によって為されているに過ぎない実情がある。これらの事例において争われる事件は増加すると考えられるため、法整備やガイドライン(指針)作成が望まれている。

「インフォームド・コンセント」という外来語は一般に分かりづらいため、様々な日本語訳が考えられている。1990年に日本医師会が公表した報告では「説明と同意」という語が使われている。医師や看護師の本心が変われば言葉なんかどうでもよい。

ほかに、国立国語研究所の外来語委員会は2003年4月に、「説明と同意」に加えて「納得診療」という言い換えを提案している。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』参照。

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