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昭和作家・平林彪吾の伝記小説 古沢襄
テレビ朝日の報道局長だった松元真さんも幼なじみの友人。気がついたらお互いにジャナーナリストになっていたという仲である。ニックネームは”マツゲン”、私は”マコちゃん”と呼ぶ。父親は昭和文学史に名が残る平林彪吾、父上は大柄の九州男児であった。鹿児島県人。本名は松元實。

マコちゃんと私ことジョウちゃん、それに紅一点のトモ子こと堀江朋子さんが連れだって浅草によく飲みに出撃した。その仲間に武田麟太郎の長男・文章君や頴介君も加わって浅草のどじょう鍋を突っついたこともある。文章君は詩人、頴介君は毎日新聞にいたが、私たちより若くして、この世を去った。

マコちゃんと私は喜寿、トモ子はそろそろ古希に近づいた筈だが、当時はお互いに四〇歳台。三人とも会社勤めのかたわらエッセイらしきものを書き飛ばしていた。

ある日のことマコちゃんは「生のジャズを聞きにいこう」と言い出した。「ジャズかあー」と私は乗り気でない。喧しいアメ公の音楽といった程度の知識しかないからである。「あら、クラッシク・ジャズを知らないの」とトモ子は乗り気。

二対一で浅草のジャズ喫茶らしきところに連れていかれた。ビールを飲んでいる客もいるから喫茶店ではないのかもしれぬ。食わず嫌いだった私も今では書斎でクラッシク・ジャズを聞きながら、ものを書くことが多くなった。

マコちゃんは同人雑誌・文芸復興に「平林彪吾とその仲間たち 私抄”文学・昭和十年前後」を連載中である。時折、当時のことで問い合わせの電話や手紙がくる。完結すれば平林彪吾の伝記小説として出版するつもりなのだろう。

杜父魚文庫に松元真氏が父の想い出を書いたことがある。

<鶏飼ひのコムミュニストが当選
相馬ビルは、当時でも珍しい鉄筋コンクリートの五階建てであった。その四階の角部屋が私たちの住居である。窓から、建設中の勝鬨橋と聖路加病院が見えた。「パパ、少し出世したんだぞ」父は、おどけてみせた。昭和十二年三月引っ越し。事実、自転車屋の二階、美容院の離れなど、銀座界隈を転々としていた私にしてみれば、突然、浮き立つような眺望が手に入ったことになる。六畳一間に押し入れと台所、便所は共同であった。

昭和十年、「文芸」の懸賞に「鶏飼ひのコムミュニスト」が当選。父は、「人民文庫」執筆グループの一人として主に同誌を中心に作品を発表していたが、以後「文芸」に「フロック」や「輸血協会」などを発表、わずかながら世に認められるようになっていた。アパートの一室では、文学青年がよくたむろして、将棋をさしたり、議論をしたりしていた。父はその喧騒の中で、机に向かっている日も珍しくなかった。居場所のない私は、大きな父の胡座の中にすっぽり抱かれていることが多く、私の耳元で、父の走らせるペンの音が軋んでいた。

生活を支えるため、母は夕方になると、身支度を整えて、銀座のカフェへ出勤した。母が出掛けたあと、夕刻を狙って父の仲間が押し掛けてくることが、まま、あった。自然、銀座に繰り出すことになるが、時には浅草まで遠出をする夜もあった。父は、母の鏡台から、生活費の一部を、拝む真似をしては持ち出した。ただでさえ大柄な体躯を小さく丸めて、私に目配せをする。たいがい私は、置いてけぼりにされたが、時にはお供をさせてもらった日もある。私の謀叛をおそれたからであろう。

私の記憶では、浅草の場合、「神谷バー」か「染太郎」、銀座では七丁目に今もある、天井の高いビヤホール。戦災の焦げ跡はそのままだが、タイルの壁画も復元され、相変わらず賑わっている。父は私にフルーツポンチを与え、食べ終わると、表の露店に花火を買いにやらせる。私は何度も、ドーム風の高い天井めがけて、打ち上げ花火をやらかし、大人たちの拍手を浴びた。父はその度に支配人に頭を下げた。鏡台からの抜きとりは、とうに時効であろう。いや、母にしても、先刻気づいていたに違いない。>

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