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成都の名所「武候伺」 宮崎正弘
▲関羽も諸葛も「神様」になった
成都市内の最大名所は「武侯伺」。ここでで劉備玄徳は神になっていた。ついでに言えば関羽も「神」。中国各地に関羽廟があって、線香の絶えない日はないが、なんとこの武力の英雄、いまは「商売の神様」として崇められているのだ。

あまつさえ洛陽郊外にある関羽の首塚がその総本山。「首塚」を商売の神様の信仰総本山とする中国人の信教感覚は、日本人とあまりにも異質である。

武侯伺は、成都の観光の目玉、たまたま筆者が行くと、小学生の修学旅行が来ている。身なりも良く付き添いの先生も上品そうで、おそらくエリートの私学かと思われた。皆が可愛い顔、服装も洒落ている。

「諸葛孔明を知ってるの?」と私のデジタルカメラに近寄ってきた一人に聞いてみた。
「知らないけどえらい人なんでしょう?」
「三国志は読んだ?」
「ううん。でもテレビで見た」

「関羽は?」
「一番奥に関羽の大きな像があるの。そこへ行くの」
先生がやってきたので会話を終えたが、小学生の女の子でも三国志の英雄達は憧れの的。

対極的に日本ではこの類の英雄を祭る場所があまりにも少ないことに気がつく。

乃木神社。千早城跡と楠公像、菅公像。広瀬中尉の神社と記念館(大分県竹田市にある軍神・広瀬記念館を訪れる人数の少なさよ)。

今の若い人に♪〜「杉野はいずこ」って軍歌を知ってますか?と尋ねてご覧なさい。なにしろ大楠公・小楠公とは?と尋ねたら「オロナイン軟膏の新種」と答えられてしまった経験がある。

▲「蜀」なる幻影の国家
「蜀」なる国家は、まるで得体の知れない劉備玄徳が、漢の皇帝の末裔だと名乗り、軍師として諸葛孔明を三顧の礼をもって迎えたところから破天荒の劇が開幕する。

日本人も例外的に、この血湧き肉踊る活劇が大好きである。

やがて関羽などの暴れん坊を脇に揃えての国盗り物語、空気のような国家「後漢」が成立してゆくわけだが、あの物語の舞台は四川から江南地域にかけてである。

三峡クルーズに行かれた人なら、白帝城見学ののち形州のさきに「赤壁の闘い」があったとされる断崖絶壁をご覧になっただろう。しかし赤壁の戦闘そのものが実在したかどうかさえ疑問で、まして「三国志演義」は後世の小説である。

その世界観はまことに短絡的で劉備玄徳が「善」で、魏の曹操は「悪」という二元論から成立する。曹操の評価があまりに低いのは、我が国なら家康贔屓が少なく、秀吉大好き人間が多いような倒錯現象と似ている。

あらゆる軍事作戦で奇跡の勝利を演出する諸葛孔明、じつはそれほど嚇嚇たる軍功があったわけでもなく最後の用兵に至っては失敗が暗示されている。

それでも、諸葛孔明は秀吉天下取りの軍師・竹中半兵衛の神話のように、中国では神となった。

諸葛孔明も崇められるのだ。

このように歴史的事実と歴史の創造は、中国人と日本人では異なる。日本の歴史教科書に容喙し、書き直しを命じる図太い神経もそうだが、歴史的客観性を中国の民に求めるのは、どだいナンセンスなのである。

その見本が武侯伺である。だからこそ興味がある。どれほど中国は彼らを神格化したのか。しかもいかなる方法で?
 
劉備玄徳の「御陵」は 意外に小さいが、庭園はだだっ広い。全体が歴代皇帝御陵と作りが似ている。こんもりとした林の中の池、石橋、鬱蒼とした竹の藪も整理が行き届いている。ざっと見渡した後、もう一度、私は正面に戻って「或ること」に気がついた。

▲歴史に客観性は不要のようだ
武侯伺は諸葛孔明を祭り、彼のお墓は皇帝の御陵のごとく参道の両側には龍、白馬、麒麟などの石像がならぶ。

さて劉備のお墓はと言えば、庭園の西の門をくぐると、小高い丘になっている。

納得がいった。諸葛孔明は劉備の家臣であるにも関わらず、この武侯伺では皇帝も家臣も一緒に祭られ、しかも諸葛孔明の歴史的価値が上位に置かれている。中国でもこれほど儒教的秩序を無視して建てられた、その設計思想は珍しいのではないか。

いや、「後漢」なる国家そのものが諸葛の死後、忽ちにして崩壊したように、蜀は幻影の王朝という印象だけしか残らなくとも、そこに英雄に強く憧れる中国人の心証を満たしてくれるなにものかが存在しているのである。

土産コーナーも庭園内のあちこちで営業しているが、劉備の像も掛け軸も少なく、しおりからカレンダー、ミニチア像に至るまで諸葛と関羽の人気が圧倒的なのである。護符も絵馬のまじない品も。

歴史的事実はここでも時代の解釈とともにねじ曲げられていたのだった。

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