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海千山千を知らないと 渡部亮次郎
外務大臣の秘書官だったとき、英語の通訳が「うみせん やません」の意味を知らなくて往生したことがある。この通訳はいわゆるキャリアでなった外交官だったが、「手練手管 てれんてくだ」も知らなかった。

なるほど灘高や東大はこんな言葉を知らない方が良いかもしれないが、外交の現場では困る。アメリカの外交官は何回も会っているうちに「うみせん やません」「てれん てくだ」を日本語で覚えてしまった。

「海千山千」とは蛇が山に千年、海に千年住むと龍になるというもの。そこから『広辞苑』の説明は「世知辛い世の中の裏も表も知っていて、老獪な人」「――海千山千の事業家」と説明している。

通り一遍の説明をしないで有名な金田一京助まで遡る三省堂の国語辞典『新明解』は「あらゆる経験を積み、社会の表裏に通じていて悪賢い人」となっている。

また「手練手管」について『新明解』は「うまいことを言って人を丸め込む方法」とあり、いずれにせよ褒め言葉ではない。だが政界の寝業師から外務大臣になった園田直氏は褒め言葉と思っていて、言われて怒らなかった。

蛇が千年山で住むと海に降りて蛸になるという話は各地にあり、実際にヘビがタコに変身するところを見た、という目撃談も数多くあるらしい(4月だが1日では無い)。

この蛇が変身した蛸は足が8本ではなく7本しか無いと言われており、そのため、タコを捕まえて足が7本しかなかった場合、海に帰すという習慣が、かなりの地域に分布しているとか。

海千山千と似たものとしては「古狐」「古狸」の言葉もある。妖怪の類と見られることも多いが、年を経た狐はお稲荷様のお使いになるという説もあり、狐には蛇と同様の神聖な面も見られていたのでしょう。

英語にもold fox という言葉があるが、いい意味はあまりない。古狸については古狐以上に良くないイメージがあるが、日本では年を経た狸が、病気で動けない和尚に代ってお寺の勧進をして回ったという話もあり、狸の持つ親しみやすいイメージから、そういう方向も出てきたのかも知れない。

http://www.ffortune.net/symbol/12si/s06/mi02.htm

日本の政界では川島正次郎、大野伴睦、三木武吉といったような人たちはみな「海千山千」で「手練手管」に優れ「歴戦の勇士」といわれ、喜んでいた。

彼らから一時代遅れた田中角栄、保利茂、鈴木善幸、園田直といった人たちは、後から同じように言われて嬉しかったのだろう。実に官僚派に対抗して地位を固めるには海千山千と手練手管で行くしかなかっただろう。それが多少、ずるくても、軽蔑されても官僚を使いこなした。角栄は甘やかしたが。

今の政界には2世、3世は腐るほどいても、官僚を使いこなせる海千山千は与野党のどこにもいない。舐められっぱなしだ。文中敬称略

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