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鬼怒川には橋がなかった 古沢襄
川の流れをみていると飽きない。40数年も大都会の人の渦ばかり見てきたから、悠然たる川の流れをみていると気持ちが和んでくる。もっとも利根川では、何やらけたたましい音をたてる水上バイクで遊ぶ若者が増えているので、もっぱら鬼怒川の方に出向いている。川を見ていると一時間ぐらいが、すぐ経ってしまう。

茨城県下の鬼怒川水路は、ほとんど見て歩いたが、江戸時代には橋がかかっていなかった。徳川幕府が北方大名の侵略を阻止するために、もっぱら軍事的な理由で橋を作ることを認めなかった。北方には仙台の伊達、秋田の佐竹、山形の上杉といった外様大名がいる。江戸の北方拠点として水戸に御三家のひとつを配して守りを固めている。

茨城県は北関東に括られるが、山らしい山がない。筑波山などは東北の山々に較べれば”丘”の様なものである。東北の軍勢が江戸を目指して進撃してきた時に、阻止線となる山がないと、平野を一気に南下される恐れがある。

山の阻止線に代わって、着目されたのが川の阻止線。川に橋が架かっていては、その橋を占拠されたら、大軍の誘導路になってしまう。橋がなければ、川舟を使うしかない。十数艘の川舟なら移動できる軍兵の数などしれている。その川舟も焼き払ってしまえば、大軍は川の手前で立往生してしまう。

徳川家康が上杉景勝討伐のために五万六千の軍勢を率いて、下野国(栃木県)の祇園城に本陣を敷いた。そこに石田三成が挙兵の知らせが入った。天下分け目の関ヶ原の合戦の序曲である。

西にとって返す家康は、次男の結城秀康を呼び「上杉という謙信以来の弓矢の前に立ちはだかる総大将はお許しかない。軽々に動くな。しかし上杉が鬼怒川を越えれば、命をかけて防げ。お許とは今生の別れになるやもしれず」といって落涙したという。

戦国の美談と伝えられているが、撤退する家康は鬼怒川を渡河すると川舟をことごとく焼き払っている。結城秀康が上杉、佐竹の連合軍に攻められたら、撤退する退路を断たれていた。

秀康を陣屋に呼んで関東の総大将に指名した時に「家康が西に向かったと景勝が知れば、佐竹も動く。総大将には秀忠では心もとない。関東を護り、江戸城を護るためには武門の名が高い秀康しかいない」と言った家康の言葉には嘘がないが、次男が江戸に戻る川舟までも焼き払った冷酷さも本音である。

川は人の心と歴史を映してくれる。

鬼怒川には橋がなかったから、川舟で対岸と往復するしかない。これが鬼怒川水路を使った水運が発達する原因となったのだから面白い。今でも対岸を結ぶ船着き場の跡地があちらこちらに残っている。

東北などから水路、陸路で送られてきた物資が、船着き場に建てられた倉庫群に集積されて、大型の川舟で江戸に送られるようになった。

川幅が狭くなると舟に結びつけたロープを両岸の人夫が引っ張る光景もみられた。江戸の繁栄とともに関東の川が交通や物資輸送の主要な手段として発達している。馬の背を借りた陸上輸送よりも大型の川舟の方が大量に物資が運べる。

船着き場の権利を持ち、倉庫群を持つ旦那衆が、やがて台頭してくる。主家を失った武士や幕末に出てきた金貸業が多い。時流に乗って栄えた旦那衆たちは、近くの宿場で芸者衆を呼んで酒盛り、わが世を謳歌している。新しい特権階級が川を支配し、武家階級よりも力があったという。

時代はさらに変わる。明治時代になって岡蒸気と称する汽車が走るようになった。川舟に依存してきた旦那衆にとって死活問題。明治政府の路線計画は東京から水海道を経て東北に向かうことであったが、水海道の旦那衆はこぞって反対した。

そこで当時は寂れていた漁村の取手を経由する路線変更になったという。旦那衆はホッとして芸者衆を総揚げのドンチャン騒ぎをして”勝利感”にひたったそうだが、人と物資の流れは水海道に戻ることはなかった。水海道だけでない。かつて栄えた川筋の船着き場、倉庫群は寂れたままである。

そんなことを考えながら川面をみていると一時間ぐらいあっという間に過ぎていく。

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