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孫の名付け親・辺見庸 古沢襄
私には娘が二人いるが、孫は一人しかいない。三百年続いた古沢家も私の代で絶家になると思うとご先祖さんに申し訳ない気持ちに駆られるが、それも仕方あるまい。ご先祖さんといえば、最近は自分の身体にそれが宿っていると思うことが屡々ある。父や母の夢をみることが多くなった。魂を信じるところまでいかないが、遺伝学的にいえば父と母のDNAが間違いなく私の身体に伝わっていることは確かである。

ただ一人の孫は娘の嫁ぎ先の姓なのだが、中学一年生になったこの子の身体に私のDNAが伝わっていると思うと古沢の姓にこだわる必要もないと考える様になった。孫の名前は「竜太」、芥川賞作家の辺見庸さんが付けてくれた。カメラマンの娘婿が「もの食う人々」の取材で辺見庸さんと海外出張した縁である。共同通信社の宿泊設備を題材にした「自動起床装置」の作品を読んだ時の印象は強烈だった。

昔は小説を書くつもりでいた私は、共同通信社という職場をほんの腰掛け程度のつもりでいた。同人雑誌「星霜」に「若死の予感」という短編の習作を書いたら、那珂孝平さんから「こういう作品を書き続けたら、数少ない短編小説の書き手になります」と過分なお褒めの言葉を頂いて有頂天になったものである。

一度だけ横浜のバアで辺見庸さんと飲んだことがある。彼が作家として一本立ちする前のことである。娘婿に連れられていった。一目みて「組織の枠にはまらない男だな」と思った。同じ様に組織の枠にはまらない私の直感である。そして見事な作品を発表し作家として共同通信社を去っていった。私の方は一年ごとに小説の世界から遠くなり、自由な共同通信社の空気に慣れ親しんで、馬齢を重ねている中に定年を迎え、おまけに役員にまでなった。

共同通信社という組織は自由な雰囲気に満ちている。上司も平社員も意識しないで済む珍しい世界であった。だいたい肩書きはおろか姓も、まともに呼んだことがない。田英夫さんは「デンチャン」、犬養康彦さんは「ワンチャン」、内田健三さんを「ウチケンサン」の類である。古巣の仲間からたまに電話があると「フルサン、お元気?」とくる。新入社員の面接試験に立ち会ったことがあるが受験の理由を聞くと「株式会社でない社団法人で、上下の差別がない自由な社風に憧れた」と答える者がほとんどであった。

その自由な雰囲気の職場から飛び出して一人歩きするには、かなりの勇気が必要になる。ところが私の先輩や同僚、後輩たちで共同通信社を途中退社して、一人歩きする人が意外と多いのも事実である。

辺見庸さんの前に芥川賞受賞作家になった高井有一さんは労働組合運動で一緒だった。笑う時に「ケッケッケ」と独特の声を出す人で、文化部の記者だったから小説を書いているな、と思っていたが受賞作品の「北の河」を読んだ時には勝負にならないな、と自覚したものである。高井有一さんもやがて共同通信社を去っていった。

作家志望なら分かるが、政治家の秘書やブレーンになって去っていった人も枚挙のいとまがない。何が彼らを駆り立てるのであろうか。

多分、自由な雰囲気に安住することを潔しとしないものがあるのではなかろうか。自分の身を逆流に置いて挑戦し、新たな世界を切り開く冒険心といったものがあったと思う。政治部記者として親しかった麓邦明さん(田中角栄秘書)、同僚の西村恭輔さん(福田赳夫秘書)らが新しい世界に飛び立っていった時には、取り残された思いに駆られたものである。とはいうものの私には自立して飛び立つ自信がなかったというのが正直な告白である。そして組織の中で馬齢を重ねた。

孫の竜太は正月になると私のところで数日を過ごす。小学生の頃は、孫の機嫌をとるためにテレビゲームを老骨に鞭打って覚えた。

「竜」は天に駆け上がる。そういう大志を抱くことを願って辺見庸さんがつけてくれた名前なのであろう。天とは会社の様な組織の頂上ではない。遙かに高いところにある。そんなことを思いながら一人の孫をじっと見つめることが多くなった。

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