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武田麟太郎の文学碑 古沢襄
大阪の井原西鶴の墓所に作家・武田麟太郎の文学碑が建立されている。麟太郎は明治37年、大阪市で生まれ、京都の旧制第三高等学校から東大仏文科にすすんだが、三高時代から小説を書き、東大入学後、同人雑誌「辻馬車」に参加して、旺盛な文学活動に入った。



昭和4年、律動的で無駄のない文体と複雑な構成をもつ新しい表現形式で「暴力」を発表、プロレタリア作家として一世を風靡したが、政治主義的傾向から転じて、井原西鶴から学んだ独自の作風をもって「日本三文オペラ」「銀座八丁」「井原西鶴」を書いた。

その文学活動は、終生、市井に生きる人々を愛して、これらの人々の哀歓をありのままに描く作風に徹している。戦前のファシズムの嵐の中で「人民文庫」を創刊して、当時の文壇にあって抵抗の文学を志した。戦後、武田文学の開花が期待されながら昭和21年に死去している。



古沢元のエッセイに「ビヤホールの文学論議」がある。原文は「J・T」「R・T」「J・N」となっているが、あえて実名にした。その一節に過ぎないが、小説に対する三人の作家の考え方がにじみ出ていて興味がある。

◆ある酒場で,ビールをあふりながら高見順、先ず語った。「小説は要するに話だヨ」と。
◆今を盛りの小説家である武田麟太郎は、一言の下に高見順の説を葬った。「話だ!小説が話なら何も苦労はせんだろう」

◆新田潤が、やや気色ばんで「高見順の話というのはローマンテックということだヨ。紙文芸は滅亡せんさ」
◆私(古沢元)は静かに傾聴した。(一九三五年夏)

◆古沢元の寸評が面白い。高見順は文学の形式を後生大事にしている。武田麟太郎は思ったよりも辛い文学者だ。新田潤は無事太平楽だ、私はこれからだ、とある。

高見順はこの時期、同人雑誌「日暦」に発表した「故旧忘れ得べき」が第一回芥川賞候補作品となり、新進作家として注目されていた。「故旧忘れ得べき」の饒舌調とも言われた独特のスタイルで「高見順時代」を生む。

まさに文学の形式に骨身を削っていた。このスタンスは素朴なリアリズムに対する反抗と言える。もともと高見順には、ダダイズムやアナーキズムの世界に沈殿した遍歴がある。親友の新田潤が「ローマンテック」と言って高見順の肩を持ち,先輩作家の武田麟太郎に逆らったのも面白い。

古沢元に”太平楽”と切り捨てられた新田潤だったが、このあと「人民文庫」に「片意地な街」を発表し、日本のゴオゴリが現れたと注目されている。もっとも戦後、中間小説の流行した時代に華々しく再登場して,中間小説を書きまくったが、高見順は「闘病日記」の中で「怠け者の新田は、相変わらず一夜漬けのような中間小説を書いているが、彼は才能のある男なのだ。奮起せよ。新田君。君も奮起して小説を書け」と気遣った。

やがてこの四人の作家は「人民文庫」に立てこもり、現実正視のリアリズム文学の旗を掲げたが、一九三八年に廃刊を余儀なくされる。ファシズムの嵐は反体制の「人民文庫」の発行を許さなかった。武田麟太郎は最後まで「人民文庫」の存続にに執着した。

その三年前の銀座のビヤホールで交わされた文学論議だったが、田宮虎彦は武田文学を「あくまで権力に反逆しようとする逞しさ」とともに「市井事ものを書き続けて得たものは虚無と絶望だった」と麟太郎の死後、解説している。そして「虚無と絶望」を克服した時に、武田麟太郎のほんとうの出発点があったはずだ、と四十二歳で急死したこの作家を惜しんだ。

ビヤホール論議で興味があるのは,「小説は話だ」と高見順が喝破していたことだ。宇野浩二も「ほんとうらしく嘘をつく」のが小説家の本能だと言った。ありにままに真実を書く手法に作家が囚われると、小説の世界が持つ「虚構」の自由が奪われる。「虚構」が過ぎると読者が離れていく。

四人の作家は、すでにこの世にはないが、武田麟太郎の文学碑の除幕式に高見順夫人(右)と新田潤夫人(左)が揃って参列していた。高見順夫人は、このあと高見順の故郷・福井県に向かっている。両夫人とも、すでにこの世にない。



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