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壇ふみと玉泉寺 古沢襄
私の記事には玉泉寺がよく出てくる。菩提寺だからだが、全英和尚が飲み友達なせいもある。座禅を組んだことはないが、本堂でゴロリと横になって夏の昼寝をするのが好きだ。不良っ気ある檀徒といわれても仕方ない。

本堂に入るところに「一点山」の山額が掲げられてある。江戸時代に古沢家が寄進したものだという。山額には古沢家の「蔦」家紋が四つついている。過去帳によれば古沢家が北の雫石邑から沢内邑に移村してきたのが、元禄年間から正徳年間の頃。最古の墓碑は延享五年(1748)のものがある。そこから数えても、大正十二年(1923)に没落するまで、百七十五年間の足跡を、この地に残している。



初めて玉泉寺の山門をくぐる人は、壮大な寺院の佇まいに驚くであろう。野趣あふれた広大な庭園も見事に管理が行き届いている。きだ・みのる、壇一雄ら作家も訪れて泊まっていった。一昨年には壇ふみがお忍びでやってきた。

庭園の裏には小高い山がある。時折、熊がでる。その山頂に至る山道に三十三体の観音が配置されている。熊が怖いので山頂に上ったことはないが、頂上から旧沢内村が一望のもとに眺められるという。私も先祖に見習って観音像を寄進した。和尚が「あいがたし ありがとう観世音」と妙な名前をつけたが、庭園のいい位置に配置されてある。



「沢内風土記」を書いた高橋子積は、その中で「寺観は一点山玉泉寺即ち是れ曹洞宗なり。東沢山浄円寺は即ち西の御門徒なり。本宮山碧祥寺は即ち東の御門徒なり。三寺共に相並んで太田村にあり。その造営の荘厳美麗なること都会の梵刹と優劣なし」と述べた。宝暦十二年(1715)の記述である。

山門をくぐると左手に「円明蓮の池」がある。そのほとりに「人は 弱きが故に 尊しとなす」の碑がある。きだ・みのるの筆跡。最初は小さな池だったが、和尚が土方をやって大きくした。



「金がなければ、時間をかけるさ」が和尚の口癖である。私は「ンダ、ンダ」と相槌を打つ。どぶろくを二人で飲みながらの会話である。東北人は辛抱強い。雪に閉ざされる生活が長いせいであろう。春も秋も短い。夏から冬が一気にやってくる。私が一番好きな東北の季節は、雪が溶けて、萌えるような緑に包まれる春である。短い季節だけによけい心が和む。

「壇ふみさんって、背が高くて、綺麗な”おなご”でござった」。和尚が突然、言いだした。玉泉寺には壇一雄が飄然と現れて、泊まっていった時に書いた掛け軸が二つ資料館に展示されている。

「白髪の鬢眉に 混じれば 霜も花」と「筧にたぎる 瀧津の瀬に問はむ 我想う人 有りや無しやと」の二点で、いずれにも「玉泉寺に参る 壇一雄」と添え書きがある。

壇一雄は戦後間もない昭和21年に妻リツ子さんに先立たれた。昭和27年に名作「リツ子・その愛」 「リツ子・その死」を発表して、作家的地位を確立したのだが、その翌年頃から放浪の旅にでている。放浪の途中で、玉泉寺に立ち寄り、亡妻に対する想いを書にしためたのが「筧にたぎる・・・」ではなかろうか。



六〇年安保の頃、私は新宿のバア「風紋」で壇一雄を、よく見かけた。隅のカウンターで一人で飲んでいた。昭和50年に名作「火宅の人」 を発表、やがて後添えのヨソ子さんと博多湾に浮かぶ全周9キロの小島「能古島」に永住して、この地で果てた。昭和51年1月2日没、享年65歳。

「壇ふみさんが玉泉寺にきたのは、父親の足跡を求める気持ちになったからではないの」と私。今度は和尚が「ンダ、ンダ」と相槌を打つ番であった。武田麟太郎の次男・穎介さんは、河出書房にいた時に、原稿を貰いに壇一雄のところに通っていた。「壇ふみは後妻のヨソ子さんと能古島に籠もった父親を許せなかったのではないか・・・」と言っていた。それが娘のいつわらない気持ちだったかもしれないが、年月が洗い流してくれた気がしてならない。
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