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内蒙古・寧夏・甘粛・青海 古沢襄
西川一三さんの「秘境 西域八年の潜行」は、とにかく面白い。二日間かけて上巻を読み終えたところである。上巻は万里の長城の北、内蒙古自治区のバインタラ沃野から始まっている。その北にはモンゴル人民共和国がロシア・シベリアと国境を接している。

この草原地帯はシベリアを通ってハンガリーにまで及ぶユーラシア北方草原地帯の東端。中国の中原の農耕文化とは異質の牧畜に基礎を置いた文化が栄えたところである。オリエント文明の影響を強く受けている。

青銅器時代から初期鉄器時代にかけて、この地域の遊牧民が残した青銅器も、ユーラシア北方草原地帯の青銅器と関連が深いとされている。綏遠青銅器、オルドス青銅器あるいは北方系青銅器などと呼ばれている。日本でこの種の青銅器の研究に先鞭をつけたのは、江上波夫さん。

バインタラ沃野に古都・綏遠城がある。まだ行ったことがないが、西川さんは「往年の蒙古族を偲ぶラマ塔が大空に聳え、アーチ型の回教寺院の尖塔からはアラーは至大なりの声が・・・」と見事な描写をしてみせる。古代モンゴル民族と古代トルコ民族の足跡が残っている。

西川さんは内蒙古から寧夏回族自治区に旅立った。昭和十八年十月のことである。当時の内蒙古は日本軍の勢力範囲、寧夏回族自治区は支那・蒋介石軍の支配地域だったから、決死の潜入行動となった。

内蒙古・寧夏の蒙古民族はジンギス汗を生んだ高地モンゴル人。ロシアのバイカル湖周辺で遊牧していたブリヤート・モンゴルは低地モンゴル人と呼んでいる。同じ蒙古民族なのだが、低湿を嫌い、高地の斜面で遊牧する蒙古・寧夏のモンゴルとバイカル湖周辺に定着したモンゴルの違いは、水辺に対する適応性の差から生まれたのであろう。

寧夏には七世紀から十三世紀にかけて、チベット系民族タングートが建国した西夏という豊かな国があった。古代トルコ民族との混血によって東西貿易で栄え、ラクダの産出国としても知られている。ジンギス汗は東の金を攻撃するために、遠征用荷物を運ぶラクダが大量に必要となり、まず西の西夏を攻撃する。1227年に西夏は滅ぼされ、ジンギス汗の弟・ハサルが治世下におかれた。征服者の高地モンゴル人は、この地をアラシャンと呼ぶ。

私が北アジア古代史に興味を持ったのは、九年前にシベリア旅行をしてからだが、最初は地名を地図で探すのに苦労した。内蒙古の綏遠城を出発した西川さんは包頭(パオトウ)から磴口(トンコウ)を経て、賀蘭(ホーラン)山の麓のラマ廟がある街・定遠城に着いた。こう書くと簡単なのだが、直線距離にして約800キロ、それをラクダに乗って、歩く旅だから気の遠くなるような話である。

西川さんの冒険記の魅力は、ゆっくりと歩きながら、その土地を微細に観察している点ではなかろうか。西域については、中国の観光当局が写真入りで宣伝しているし、日本の若者たちがインターネットで旅行記を書いている。しかしバスで観光地を次から次へと巡る旅行記は、どうしても平板で薄手のものにならざるを得ない。また潜入のためにラマ僧として修行をしたので、われわれの知らないラマ寺院の内容を詳しく知ることができる。

定遠城のラマ寺院で十ヶ月の修行をした後、西川さんは騰格爾(テンゲル)砂漠を南下して、甘粛省の省都・蘭州(ランチョウ)を目指した。蘭州から西寧(シーニン、青海省の省都)を経由して青海湖に至る地図は、私の頭の中に入っている。青海湖のインドガンが鳥インフルエンザに冒されて、大量死した事件が発生した時に、二ヶ月がかりで地図を詳しく調べたことがある。

黄河の河畔に開けた海抜1510mの都市・蘭州は、中国でも有名な”蘭州ラーメン”の店が多い。元々ラーメンという言葉は中国語の「拉麺」から来ていて、練った小麦粉の塊を引っぱってのばしていくこと(拉)によって麺を作っている。スープはほとんどが牛肉スープ、具に焼き牛を乗せて食べている。

また、市内には多くのイスラム教徒が住んでいるため、イスラム料理をだす店も多い。蘭州駅近くの和政路には夜になると屋台が並び、羊の串焼きを焼く煙がたちこめる。だが、敵地に潜入した西川さんは、それどころではなかったろう。

結局、西川さんは蘭州をやり過ごして西寧蘭州公路の楽都(ロートウー)から西寧城に入っている。西寧の西約25kmの湟中県に塔爾(タール)寺というチベット寺院がある。明代の創建でチベット仏教ゲルク派の六大寺院のひとつで、最盛期には4000人以上の修行ラマ僧がいたという。

チベット潜入を考えていた西川さんはタール寺で、その機会を待つことになる。敗戦の年・昭和20年2月初旬にタール寺をあとにして青海湖を右手にみながらジャガスタイ峠を越えて一路チベットのラサを目指す苦難の旅にでたところで上巻は終わっている。
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