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「トランプ降ろし」残るは劇薬、共和党の誤算と苦悩   読売新聞

■上智大学教授 前嶋和弘氏の論評
 

アメリカ大統領選挙で、共和党がかつてないほどの混迷状態にある。指名候補争いでトップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏が暴言を繰り返す中、党指導部の重鎮たちはこぞってトランプ降ろしに躍起だ。


7月の党大会までにトランプ氏が代議員数で過半数となる1237人を獲得できなければ、別の候補を擁立する動きまである。一方、トランプ氏や支持者たちはそんな“奥の手”を「非民主主義的」と強く非難し、党大会での暴動の可能性まで示唆している。共和党の手詰まり感、苦悩を現代アメリカ政治が専門の上智大学の前嶋和弘教授が分析する。


■「勝って、勝って、勝って、勝ちまくる」


「我々は前進した。勝利したのだ。だが、より重要なのは、この国のために勝ったということだ。我々は勝って、勝って、勝って、勝ちまくって、この国に偉大な勝利をもたらす」


対立候補からの非難の集中砲火、党指導部の重鎮たちによる反トランプの動きなど、トランプ氏の周りには包囲網が築かれつつあるというのに、当のトランプ氏はめげるどころか、ますます意気盛んだ。3月15日にフロリダ州で勝利を収めた後の記者会見では前記の「勝って、勝って、勝って、勝ちまくる」という強気の発言が飛び出した。


24日にはアリゾナ州でも勝利を収め、獲得代議員数を741人(米CNNテレビの集計による)とした。共和党指名候補争いの焦点は、トランプ氏が7月の党大会前に過半数をとるかどうかに絞られている。いろいろな見方があるが、私は個人的に可能性が高いと思っている。将棋に例えれば、現状では“王手一歩手前”という感じだ。


トランプ氏が獲得した代議員数は741なので、過半数の1237まではあと496。残る州の代議員数は839となっており、約6割をとれば勝てるという数字となっている。制度が少しずつ変わっているため一概には比較できないが、予備選の終盤に差し掛かったこの段階でトップ候補がひっくり返されるというのは、共和党では1952年以来であり、60年以上、例はない。


全米を対象とした各種世論調査では、獲得代議員数2位のテッド・クルーズ上院議員とは10ポイントから15ポイントの差をつけている。さらに、投票数で多数派をとった候補がその州の代議員をすべて獲得する「勝者総取り」の州が3月15日以降、増えているため、今後のトランプ支持にさらに追い風が吹くという見方もある。アメリカのメディアでは「6月中にトランプの代議員数は過半数に達する」という予想も出始めた。


ただし、「今後の代議員の約6割獲得」という目標は決して低いハードルとはいえない。というのも、脱落した候補の分を含め、これまでの予備選で配分された代議員のうち、トランプ氏が獲得したのは45%。トランプ氏と現在選挙戦に残っているクルーズ氏とジョン・ケーシック氏(オハイオ州知事)の3氏に限った場合でも、3氏合わせた獲得代議員数の中でトランプ氏が占める割合は55%だ。トランプ氏には、あともうひと伸びが必要というのが偽らざる状況なのだ。


そこで、トランプ氏としては、「勝ち馬に乗る」雰囲気づくりが当面の最大の課題となった


■劇薬である“奥の手”


共和党指導部は「トランプ降ろし」に躍起だ。トランプ氏以外の候補者の支援に走る動きも目立っている。2012年の共和党大統領候補だったミット・ロムニー氏(元マサチューセッツ州知事)が、15日のオハイオ州予備選では、ジョン・ケーシック氏(同州知事)を、22日のユタ州予備選ではクルーズ氏を、それぞれその州だけ支持するという、異例の表明をしたのは、「トランプ以外誰でも」という共和党指導部の声を代弁している。


ただ、獲得代議員数が2位(これまでに461人、CNN集計)のクルーズ氏がたとえ今後の予備選・党員集会で全ての代議員を獲得するという非現実的な想定をしても、1300人である。これは代議員過半数の1237を何とか上回る程度の数字である。


今後も代議員を比例配分する州での戦いがあるほか、各種世論調査でトランプ氏がクルーズ氏を大きくしのいでいる州が多いことを考えると、クルーズ氏が過半数をとることは現実的にはまず不可能だ。


選挙戦に残ったもう一人の指名候補であるケーシック氏(これまでの獲得代議員数は4位の145人、CNN集計)にいたっては、過半数獲得は既に数字的に不可能である。


このように、予備選段階での大逆転はまず起こりそうにない。それでも、共和党指導部は“奥の手”に持ち込むシナリオを考えている。


これは、特定の候補者が代議員の過半数を獲得できなければ、7月の党大会で全く別の候補を擁立するという手である。党大会に出席する代議員はそれまでの予備選段階で各候補者に割り振られ、1回目の投票では、その候補者以外の候補への投票はできない。ただし、どの候補者も過半数をとれない場合は、2回目の投票から代議員たちの拘束が取れ、自分たちの意思で好きな候補者に投票できるようになる(予備選段階の結果に限らず、代議員内での話し合いで決めることから、1回目の投票で過半数を超える候補がいない党大会を「ブローカード・コンベンション」などという)。


この制度を利用すれば、代議員内での話し合いで決まるため、予備選段階の結果を全く無視しても構わない。選挙戦を戦ったクルーズ氏やケーシック氏、マルコ・ルビオ上院議員のほか、前述のロムニー氏や、ポール・ライアン下院議長が急に共和党の大統領候補に担ぎあげられるかもしれない。


しかし、それは共和党という党を分断させる劇薬に他ならない。トランプ氏がたとえ過半数をとれなくても獲得代議員数で1位であるのはほぼ確実であり、誰を擁立するにしても大きくもめる。トランプ氏にとってみれば、「既存のエスタブリッシュメントたちの陰謀」「人々の声の無視」そのものである。


■トランプ氏過半数獲得ならお手上げ


トランプ氏は「過半数をとれない場合、党大会前に1位となったら、党指名候補とすべきだ」などと予防線を張り、「そうならない場合、間違いなく激しい暴動が起こる」と脅している。


既に、最近のトランプ氏の集会でも反対派の乱入で流血に至るような殴り合いが目立っている。もし、党大会で別候補が擁立された場合の大混乱は想像しただけでもおぞましい。テレビカメラで衆人環視の中での乱闘騒ぎは、共和党のイメージにとっては長期的なマイナスだ。


さらに、別の候補が擁立された場合、トランプ氏が支持者を連れて共和党を飛び出し、無党派で立候補するのは必至だ。保守層はトランプ氏と擁立した共和党候補で完全に分裂し、票が割れて民主党候補が勝つことになる。アメリカの政治史で党大会に持ち込まれた段階で、指導部が別の候補を擁立した場合、その党は負ける。それでも、共和党指導部は「大統領は失っても、議会や知事選は守りたい」と割り切れるのだろうか。


いずれにしても、共和党指導部にとっては、トランプ氏が過半数を獲得してしまったら、もうお手上げとなる。他は党大会直前に選出ルールを後出しじゃんけんのように変えてしまうという手があるが、これは歴史的にも例がない、禁じ手中の禁じ手である。


党内の激しい「トランプ・アレルギー」の中、「トランプ候補」で挙党体制が望めるのか。一向に収まる気配のないトランプ氏の激しい言動を見ていると、どう考えても難しい。共和党の苦悩は当分、続く。


■プロフィル


前嶋和弘( まえしま・かずひろ )=1965年静岡県生まれ。上智大学総合グローバル学部教授。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。


専門は現代アメリカ政治。主な著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(北樹出版、2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著、東信堂、2014年)など。


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