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「日本のゴーゴリ」といわれた新田潤   古沢襄

■信州上田を描いた「片意地な街」(文学界)


NHKが朝の番組で母の里・信州を放映している。信州・上田は豪雪地帯ではない。”凍(し)みる”という言葉を使う凍(こおる)るような寒さの土地柄。


戦時中には母の里・上田に疎開した。旧制上田中学には一年から四年まで在学。教室にはダルマ・ストーブが一つ。休み時間にはストーブの回りに集まって手をかざして暖まるのだが、腕っ節に自信がある者が占拠していた。


小学校の頃から剣道四段の父に鍛えられていたので腕の力だけは誰にも負けない。腕相撲だけは自信があった。だが喧嘩となるとアッパーカットを食らい、鼻血で血塗れになって戦意を喪失。


敗戦後は「幸い」という名の文学雑誌を作った。カール・ブッセの「山のあなたの空遠く 幸い住むと人のいふ」の詩から借用した題名である。これが受けて仲間が集まり、ガリ版刷りの文学雑誌つくりに熱中した。


その仲間たちも、いまは八十四、五歳。半分以上は亡くなっている。上田中学から昭和作家・新田潤が出ている。旧制浦和高等学校から東京帝国大学英文科卒、1936年に「片意地な街」を発表。


プロレタリア・リアリズムの作家として「日本のゴーゴリ」と期待された時期があったが、戦後は風俗小説を書いて流行作家となった。友人の高見順は「新田は一夜漬けのような小説を書き飛ばしている。そんな作家ではない筈だ」と苦言を呈した。


その新田潤が亡くなって38年の歳月が去った。


■日本のゴーゴリ・新田潤(2008.04.29 Tuesday name : kajikablog)古沢襄


新田潤が亡くなって30年の歳月が経った。五月十四日が命日。本名は半田祐一、母と同郷の上田市出身ということもあって、戦前から付き合いがあった。「日暦」という昭和文学史に燦然たる光芒を放つ同人雑誌がある。そこの集まりに新田氏がある日一人の大学生を連れてきた。


「上手な小説を書いている」と新田氏から紹介された人が田宮虎彦。そんなこともあって日暦・人民文庫時代には、新田氏や田宮氏がわが家によく遊びにきていた。父・古沢元は新田氏の作風を意識したと日記に書き遺している。田宮氏は東大をでて都新聞(東京新聞)の学芸部記者になり小説を書き続けた。


新田氏が「日暦」に発表した”煙管”という小説は、日本のゴーゴリが現れたという高い評価を得ている。この小説の影響を受けて古沢元は”びしゃもんだて夜話”の連載を書いたと告白している。同じ頃、高見順は”故旧忘れ得べき”の出世作を「日暦」に連載しはじめた。


新田氏は、その後「文学界」に”片意地な街”を発表して新進作家としての地位が固まった。郷里の上田市を”片意地な街”として描いてみせた。新田氏は旧制上田中学から旧制浦和高校に進学した秀才。東京帝国大学文学部時代から文学活動に専念して「文芸交錯」で知り合った高見氏とは無二の親友になった。


敗戦後、カストリ雑誌が氾濫した時代に新田氏は売れっ子の作家となった。その新田氏に対して「新田は一夜漬けのような小説を書き飛ばしている。そんな作家ではない筈だ」と高見氏は苦言を呈した。


その頃、新田氏の借り住まいを訪ねたことがある。二階の日本間でカストリ雑誌の注文原稿を書きながら「小説を書きたいのだが、何を書けば良いのか分からない」と泣き言をいう私に「中学生だから経験不足なんだよ」と優しい顔で諭してくれた。


その時に「田宮虎彦は上手な小説を書くが、本当の小説を書くのはこれからだよ」と話をしてくれた。私が大学をでて東京新聞を受けたのは、新田氏から「田宮君も東京新聞の学芸部にいた」と教えて貰った影響があった。


しかし新田氏の小説は戦争時代や疎開騒ぎなどで多くの作品が絶版となり、散逸してしまっている。「人民文庫」の初版雑誌そのものが、バックナンバーを揃えて残っているのは渋川暁氏と私のところだけではないか。「日暦」も揃っていたが、母が高見氏に貸したまま行方不明となっている。


新田潤生誕100年を機に、新田文学の主なものを選んで出版されている。四年前のことになる。新田氏は明治37年9月18日生まれ、高見氏や古沢元より三歳年上に当たる。いぶし銀のような人柄の新田氏のことを、アンドレ・ジイドの親友だったシャルル・ルイ・フィリップの様だと思ったことがある。五月には新田文学を再読して過ごすつもりでいる。(杜父魚ブログ)


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