北朝鮮が「人工衛星」と称する事実上の長距離弾道ミサイル発射を強行した。ミサイルはほぼ予告通りのコースを飛び、「ただのゴミ」(政府筋)とはいえ、何らかの物体を地球の周回軌道に送り込んだというから、北朝鮮にとっては実験は成功したといえるだろう。
一方、不測の事態に備える日本政府の対応は抜かりはなかった。発射の兆候を察知して以降、断続的に国家安全保障会議(NSC)を開いて情報を共有・分析し、破壊措置命令を発令して海上自衛隊のイージス艦や航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を各地に展開した。北朝鮮は発射直前に予告期間を1日前倒ししたが、自衛隊は宮古島へのPAC3配備もギリギリ間に合わせてみせた。
過去のミサイル発射の際には、日本政府は国民への情報発信でミスが目立った。発射が失敗に終わった平成24年4月には、発射の一報を覚知しながら裏付けに手間取り、すでに海外メディアが発射を伝える中で「発射は未確認」と発表。
同年12月のケースでは、一部の自治体で発射を速報する全国瞬時警報システム(Jアラート)が作動しなかった。今回は過去の経験を生かした入念な準備で、粛々とノーミスで乗り切った。
こうした一連の経過に既視感を覚えたり、一種の予定調和を感じたりした向きも多いだろう。過去の「人工衛星」発射と似た経過をたどったのだから当然だし、「いつものことか」という反応になるのも無理はない。しかし、その影で、重要なことが忘れられていないだろうか。
発射が予告された以上、日本政府が警戒態勢を敷くのは当然なのだが、今回の発射実験は日本というより、米国本土を攻撃するための長射程化や信頼性の向上を目的としたものだ。
■日本全土を射程に収めるノドンは200〜300基
北朝鮮は日本全土を射程に収めるノドンミサイルをすでに200〜300基、実戦配備している。今回、北朝鮮がミサイル技術を向上させ、日本への脅威が一層増したことは間違いないが、今回の発射と関わりなく、北朝鮮はとっくに日本をミサイル攻撃できる能力を獲得している。その事実に日本国民はどれだけ自覚的だろうか。
北朝鮮が本気でミサイル攻撃を決意したとすれば、「人工衛星」と称してわざわざコースや期間を予告するはずはない。ノドンは車載発射装置から撃つことができる。発射直前まで山林などに隠し、偵察衛星の目を欺いておけば、事前の兆候を察知されないまま、奇襲的に日本を攻撃することもできる。着弾までの時間的猶予は10分前後しかない。
迎撃の法的な枠組みも、実は心許ない部分がある。すでに防衛出動が発令された「有事」であればともかく、平時での迎撃を可能にするには、事前に破壊措置命令を発令しておく必要がある。では、命令が発令されていない間に北朝鮮が奇襲的にミサイルを発射し、日本に飛来してきたらどうするのか。
もちろん政府や防衛省・自衛隊は、そうした事情を百も承知で対応にあたっている。今回も、潜水艦発射型の弾道ミサイルや奇襲発射、ミサイル発射以外の挑発など「あらゆる事態を想定して」(政府筋)備えていたという。しかし、そうした危機感が国民の間にどれだけ共有されているか。悪い意味の「ミサイル慣れ」は禁物だろう。(産経)
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