■妖怪も幽霊も日本と中国では異なる信仰だが 似ている妖怪や鬼神も多いのはアジアの華僑世界に共通
<相田洋『中国妖怪・鬼神図譜』(集広舎)>
本書を手にして脳裏に浮かんだことが二つある。
まず水木しげるの世界である。先ごろなくなった漫画家の水木しげるは幽霊、妖怪、魔界を描かせると天下一品。げげげの鬼太郎、目玉小僧、ネズミ男等々。
鳥取県境港市には「水木しげるロード」があって、怪物、妖怪など百点余の彫刻が並んでいて壮観。観光客も必ず立ち寄る場所である。近くには水木しげる記念館もあるという。
その昔、評者は隠岐の島に後醍醐天皇の調べ物をしに行ったおり、帰りのフェリーが境港行きだったので、水木しげるロードを歩いた。
水木は少年時代に出入りしていたお婆さんから妖怪と地獄の話を聞かされ、なかには中国の幽霊など長崎を通じて江戸末期に入ってきた書物の影響があったという。
――なるほど中国の妖怪の影響もうけているのか。
ついで思い浮かんだのは中国華南で評者がじっさいに目撃した奇妙な情景だった。
いま若者が大きなぬいぐるみを抱えるように、大きな道教の神様の模型を肩から赤ん坊をかかえるように運んでいる一群のツアー客があった。
評者はそれを厦門空港で目撃したのだが、福建省から広東省に拡がる?祖信仰、そのゆかりの日にそれぞれの神をかかえて、飛行機は一人分、別途料金を支払い、巡礼に行くという奇妙な集団だった。
それも夥しい数の人が飛行機に乗り込むのである。
?祖は海の神、航海の安全を祈る中国版ネプチューンだが、海外へでた華僑の源流、その大方が客家としても知られるが、海外雄飛の守り神である?祖を祀る。かれらが流れ着いた先、フィリピン、マレーシア、ベトナム、タイ、シンガポール、インドネシアにも普遍的に祀られている。
前置きが長くなった。
本書は中国の妖怪、鬼神を研究してきた相田洋・福岡教育大学名誉教授の研究成果を纏めた、いってみれば中国の妖怪事典でもある。
「神明」「鬼」「精怪」「方術」などにカテゴリーが別けられ、「玉皇大帝」から「財神」「竈神」など中国の輸入本に掲載された絵解き、解説とともに詳細な説明がある。「?祖」は十番目に入っていた。
相田氏の解説によれば、?祖は「天后」「天妃」「林夫人」「天上聖母」「天后娘娘」などとも呼ばれ、実際のモデルがいて、林家の娘。旧暦3月23日が?祖の誕生日なので、アジア一帯から福建省甫田県媚州にある本山へ、すなわち「?祖像の分身(分香という)を祖廟に里帰りさせる」
なるほど、そういう由来があったのか、目撃した信者らは分身像を廟へ運ぼうとしていたのだ。一応、当時も団体を率いるおばさんに説明を聞いて、そんなところだろうと想像はしていたが、福建語はよく分からない。
「各地の進香団(参詣団)が、媚州目指して多数集結する」のだという。そして本山にあたる?祖廟には主神を祀る傍らにたいがいが千里眼、順風耳の弐待神が祀られている。
華南のあちこちで、そうした廟の構造をみてきたが、相田教授の研究では、「これらは明代からのようで、『封神演義』に見え」るという。
本書はほかにも山のように中国の妖怪や鬼神が網羅され、図譜とともに説明がなされている。(註 『?祖』の「?」は女扁。媚州の『媚』はさんずい)
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