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日本人人質殺害というテロ事件で日本が学んだこと    宮崎正広

■これから取り組まなければならない喫緊の課題は何か?


日本の安全保障対策がなっていない事実をあますところなく世界に曝した「イスラム国」による日本人人質殺害事件を振り返ってみる。


イスラム国を名乗るイスラム過激派テロリストの恐喝に日本はなんら効果的な対応措置を講じられなかった。


湯川適菜氏がトルコ経由でシリアに入国したのは2014年7月28日のことだ。「現地に会社をつくる」などと奇妙な企てをもって本人が撮影した映像では自動小銃で武装しており「護身用」と言った。


翌8月16日に「イスラム国」に拘束されたことが分かり日本政府はヨルダンの首都アンマンに対策本部をおいた。アンマンはイラク戦争、湾岸戦争を通じて多くの情報が交差する情報蒐集ポイントだからだった。


10月25日に湯川さん救援に向かった後藤健二氏が「イスラム国」の「首都」ラッカへ出発し、行方不明になった。


後藤氏は外務省や政府筋から渡航を自粛するよう再三にわって要請されていたが「万一があっても自己責任だ」と発言していた。週刊誌によれば、後藤氏を案内した現地のガイドが裏切ったそうな。


12月3日に後藤夫人が身代金を要求されていることが判明した。


年が明けて2015年1月17日、安倍首相は訪問先のエジプトで演説し、人道援助のため二億ドルの支援を表明した。同月19日にはイスラエルへ飛んでネタニヤフ首相と首脳会談を行った。


衝撃的映像がユーチューブに流れたのは翌日である。


すなわち2015年1月20日、ふたりがオレンジ色の囚人服を着せられ、イスラム国は「72時間に二億ドルの身代金を支払わなければ殺害する」と予告した。


日本政府は関係国、周辺国首脳に電話をかけたり、アンマンの対策本部には中山政務官を残留させ、交渉に当たらせる。また人質となった二人の映像が合成ではないかとする情報分析も流れた。


 ▼情報がない、コネクションがない、ネットワークがない


情報の確認が遅れ、日頃からのコネクションの悪さが響いた。ただひとつ評価できることがあったとすれば、「テロリストには屈しない」と毅然とした態度で臨んだ安倍首相の不抜の決意だった。


1月24日、殺害された湯川氏の写真をもった後藤氏の画像が公開された。直後からイスラム国は身代金を取り下げ、代わりにヨルダンで収監されているサジダ・リュハウィ死刑囚の会報を要求し始める。


或る分析によればこの時点でイスラム国の主流派と反主流派で思惑が異なり戦術が分かれたという。


それまで死刑囚釈放を要求したことはなく、身代金に拘ったのがバース党残留組を主体に軍事作戦に秀でたイスラム国主流派で、パイロットと死刑囚の交換という政治色を露骨にしたのが反主流派ではないか、というのだ。


1月27日に再び後藤健二氏の映像が音声とともに流れ、しかし「死刑囚を二十四時間以内に釈放しなければ後藤氏を殺害する」と脅迫した。


ヨルダン情報筋ではヨルダン軍パイロットのモアズ・カサスペ中尉は既に殺されているとし、死刑囚との交換には疑問符が打たれた。


2月1日に後藤氏が首をえぐり取られて殺害という残忍な映像が流れた。ついで2月3日にはヨルダンのパイロットを焼き殺す映像が流れた。翌日にヨルダンは死刑囚らの死刑を執行した。

 
この事件で浮かび上がった問題点を整理する。


第一に「超限戦」を地でいくように、ネットをフルに使っての宣伝と心理戦争で日本も世界も振り回されたことである。国家をなのるテロリスト集団が大国、列強をSNSで振り回し、震撼させたのだ。


また交渉スピードの迅速化というネット通信の変化、ならびに世界同時性という従来なかったテロの形式が登場したことである。


第二に日本の平和路線が過酷な現実の世界のまえに効果がないという悲惨なリアリティが示された。


また殆どイスラムとは無縁の、自由な国々からもイスラム国へ向かって聖なる戦闘に自ら志願する、若者たちの夥しさに、ネットの持つ兵器としての威力をまざまざと見せつけられた。


第三に日本には国家として致命的な欠陥があること。すなわち世界一の福祉社会でありながら防衛力が貧弱なばかりか、情報機関がないという「普通の国」ですらない哀れな現状が世界に曝されたことだ。


現地での情報ネットワークもなければ協力者も不在で周辺国に交渉を頼らざるをえないという醜態が演じられた。吉田松陰は間(スパイ)の重要性を説いた(『孫子評註』)が、兔の耳はなぜ長いのかという寓話さえ、日本の政治には反映されていなかった。


▼脅迫に弱かった日本の過去の「実績」


第四に日本の脆弱性、すなわち身代金を日本が支払いそうであるという過去のダッカ事件やキルギス事件などでの「実績」がひろく世界のテロリストに知られていたことと同時に日本には現地へ急派される特殊部隊がないこと、若干訓練されたチームがあっても海外派遣に必要な法整備も経由地との打ち合わせ体制も出来ていない事態などが浮き彫りとなった。


第五に日本の危険信号に対して欧米ならびに産油国の多くが協力的だったが、中国は他人事として冷たく見ていた事実も或ることを物語る。


中国はイスラム国と闇取引している形跡があり、かれらの資金源である原油の密売ルートで、大量の顧客は中国らしいこと、またイスラム国に加わっているウィグル人を「減らす」ことを密かにイスラム国の幹部に要請したという噂もある。


ともかく日本は政治の舞台裏の謀略にあまりにナイーブである。
 

ついでこうした反省から生まれてきたことは何か。


第一は情報機関設立の喫緊性である。


過激派の動向を掴み、安全保障に寄与するため日本にもCIAが必要なことは言うまでもない。謀略とは戦争の要であり、倫理観をこえた現実的政治である。


とくに現地の文化、歴史に通暁し、言葉も喋ることが出来る人、機密工作に従事できる愛国者が必要だが、現時点で採用可能な策とは「駐在武官」の拡充である。


イスラム過激派のテロで、日本人ジャーナリストらが殺害され、日本のマスコミが大きく報じた直後から論壇を騒がせている議論は「安全保障局の拡充」、「テロ対策特殊部隊の拡充」などだが、日本版CIA創設は自民党内でようやく議論になった。


このような欠陥があるため、過去に日本がやってきたことは国際会議、国際機関での決定事項への積極的協力であり、たとえば1月下旬のイスタンブールで開催された「G20財務相・中央銀行総裁会議」でも「テロ資金遮断へ結束する」という共同声明が出されたが、具体的に日本が資金提供をしても、高度の情報を欧米から提供されていない。


 ▼当面は駐在武官の拡充でお茶を濁すらしいが


第二に駐在武官の拡大と権限付与である。


どの国も大使館レセプションでは大使の隣は駐在武官である。日本が外国でおこなう儀式で駐在武官の序列がたいそう低いため、当該国の情報将校との接触も難しいのが現状である。


現在、日本の駐在武官がいるのは、イラン、アフガニスタン、クエート、サウジアラビア、イスラエル、アルジェリア、レバノンなど九カ国に過ぎず、2015年中にモロッコ、ヨルダンへの派遣が検討されている。


第三に総合的な危機管理の機構整備と強化である。機構は一元化が望ましく、また佐々淳行氏などは「首相直属の安全保証局」が必要としている(産経新聞、2015年2月2日付け「正論コラム」)。


現状は警察庁、防衛庁、内閣府、公安調査庁に権限も組織も分散されており、統合的なアクションが取れないのだ。


14年十月末現在、世界に駐在する日本人は126万人だが、このうち一万五千人が中東ならびにアフリカ諸国に住む。人質になる危険性がある。


表面化しているイスラム過激派は「イスラム国」だけではなく、元祖アルカィーダはビンラディン亡き後もアフガニスタンに健在である。「イスラム・マグレブ諸国のアルカィーダ」はアルジェリアで日本人エンジニア十名を殺害した。


イエーメンには「アラビア半島のアルカィーダ」が、ソマリアには「アルシャバープ」なる過激派が盤踞し、ナイジェリアにはイスラム国に同様に残忍な「ボゴハラム」が少女誘拐、自爆テロ、恐喝などを繰り返し、ナイジェリアの無法地帯を形成している。シリアには「ヌスラ戦線」、マリには「アンサール・ディーン」・・・。


これらの過激派の情報を掌握しているのはイスラエル、ヨルダン、エジプト、そしてトルコである。


しかし日本政府はこれらの情報機関と正式なコンタクトもなく、情報交換の場もなかった。提供する情報が日本側にないから仕方がないというのは言い訳に過ぎず、取り引き材料がなければカネで買えばよいのだ。


要するに米CIA、英MI6のような情報機関は独・仏・露、イスラエルに完備しており、自由世界で情報機関がなくても暮らせてこられたという戦後の摩訶不思議な日本の僥倖は去った。
 

<a href="http://www.kajika.net/">杜父魚文庫</a>

| 宮崎正弘 | 08:43 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







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