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訪中でわかった朴槿恵大統領の「歴史感覚」  古澤襄
<韓国の朴槿恵大統領の訪中は大成功、中韓は「政熱経熱」の時代に入った。朴氏は清潔感を漂わせ、強い政治信条を印象付けて“アジア版のサッチャー”のイメージで注目された。

一方で朴氏は中国でも日本の歴史観を批判して「域内の対立の原因」と鋭く牽制(けんせい)。そのうえで伊藤博文を殺害した安重根を“中韓が尊敬する歴史的な人物”として事件現場のハルビン駅に「記念碑を建立したい」と習近平国家主席に協力を求めた。

朴氏の「歴史観」は限りなく後ろ向きで、日本国民をうんざりさせている。(久保田るり子)


■米国に次いで今度は中国でも日本非難、その真意は?

朴槿恵政権が日本との歴史問題で最も重視するのは慰安婦問題だ。韓国政府は憲法裁判所が下した「韓国政府が慰安婦問題について何も努力しないのは憲法違反」(2011年夏)との判決に縛られているからである。

朴氏はこの問題にどう取り組むかの行動力、女性大統領としての“倫理”が問われ、さらに日韓和解を決断した父、朴正煕元大統領の娘としての“責任”も試されているというわけだ。

なにしろ韓国の左派や進歩陣営の反日勢力は、「旧日本人軍人だった朴正煕がクーデターで政権を取ったから(日韓基本条約で)慰安婦問題は処理されなかったのだ!」「(朴正煕は)旧日本軍人だったから靖国神社参拝問題にも甘かったのだろう」などと朴氏を攻撃してくる。従って朴氏が「過去離れ」「歴史離れ」を選択するには高いハードルがそろっているのは日本政府も承知しているだろう。

今回、朴氏は米中首脳会談という大舞台からの「日本の歴史問題」発信という新手を繰り出した。米国では「日本は過去に向き合い、正しい歴史認識を持つべきだ」と述べ、中国では「最近の歴史などによる問題で域内国家間の対立と不信が高まっている」として、“日本の歴史観”こそが域内の不安定要素なのであると、域内問題にまで一般化して、厳しい表情で日本批判を行った。

実は韓国が大舞台で日本を批判するのは珍しくない。かつて金泳三大統領(当時)は中国の江沢民国家主席(同)との中韓首脳会談で、竹島問題について「日本のポルジャンモリ(ばかたれ)をしつけ直してやる」などと発言している。

韓国の政治リーダーがソウルから韓国語で日本に発言してもその声は小さい。だが、大国の舞台から日本批判をすれば大声になる。二国間問題をドンドン大振りに仕立てて相手国を牽制するーこれも外交手法であろうが、いま大半の日本人は「朴さん、またですか…」とげんなりである。

■「ハルビン駅に安重根の記念碑建立したい」って…

1905年のポーツマス条約でロシアから韓国の保護権を得た日本は、第二次日韓協約で韓国から外交権を奪い、漢城(ソウル)に総督を置き、伊藤博文が初代総監に就任した。当時の伊藤が韓国併合に慎重だったことは、すでに歴史研究の常識になっている。

日本にとっての伊藤博文は、まず黎明(れいめい)期の立憲政治の祖であり初代内閣総理であり、日清日露戦争の外交を仕切った近代日本の重鎮である。葬儀は東京・日比谷公園で国葬として行われ、日露戦争勝利の凱旋(がいせん)以上の人出だった。

しかし、韓国からみると伊藤博文は併合を強圧的に進めた人物としてみられている。1909年10月26日、ハルビン駅で伊藤を狙撃した安重根は「侵略者、日本の象徴であり抗日戦線の敵」を倒した義士(英雄)なのである。

習近平氏主催の昼食会で安重根の記念碑建立案を提案した朴氏。日本からみれば実に唐突で攻撃的で、しかも過去に固執した後ろ向きな姿勢にしか映らない。なぜ、いま安重根なのかも不可解だ。

朴氏は安重根について「中韓共通の尊敬すべき歴史的人物」と述べたが、中国がこの価値観に同意するかは定かでない。

2006年、韓国企業家がハルビン駅近くの広場に安重根の銅像を建てたが、中国は10日後に撤去している。理由は「外国人の銅像建設は許可しない」とされた。中国にとっての安重根は第3国の要人暗殺者でしかないとの見方もある。習氏がどう判断するのか、興味深いところだ。

安重根の記念碑建立案は民間が主導してきた慰安婦像建立とは明らかに異なる。日本人は、韓国が安重根を義士とする歴史認識について異論は唱えない。国や立場によって歴史認識が異なるというのは、日本では当たり前の発想だからだ。

しかし、「歴史」を外交に政治利用して「中韓で共闘」を提案する朴大統領の姿勢には認識以前の不快感、違和感を持つ。この提案で、日韓の情緒的なミゾはまた深くなってしまったようである。(産経・朝鮮半島ウオッチ)>

杜父魚文庫
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