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歌ったり、はしゃいだりしないほうが 岩見隆夫
「安倍さん、大丈夫ですか」という質問を受けることが多くなった。その気持ちはなんとなくわかる。当方は、

「危ないです」と言わない代わりに、「大丈夫です」とも言いにくい。

安倍政権の支持率は発足から五カ月を経ても七割台をキープして、とりあえず順風である。しかし、順風満帆とまではいかない。アベノミクス効果で、陰気だった社会が明るさを取り戻しつつあるのは確かである。株高でがっぽり儲けた連中がいるらしい。しかし、株をいじったことのない多くの庶民には無縁の話だ。

円安で黒字に転じた企業も少なくない。夏のボーナス満額回答の景気いい話も久しぶりに聞こえてくる。しかし、その逆もあって、明暗を分けている。

要するに、アベノミクス効果は上がってもまだら模様で、半年先、一年先の〈わが暮らし〉がどうなるかがわからない。安倍晋三首相らは、

「タイムラグ……」という横文字をしきりに使う。多少の時間差があるが末端の暮らしも必ずよくなると言いたいのだ。一方、民主党の海江田万里代表らは、〈副作用〉とか〈落とし穴〉という言葉を多用して、アベノミクスの先ゆき不安を訴えている。

国民はどちらを信用するか。安倍さんのほうを信じる、あるいは信じたいと思っていることは、政権や自民党の支持率の数字を見ればわかる。民主党政権が無残に瓦解したあとだからなおさらだ。

しかし、である。ここからが大事なところだ。安倍さんは信じたいが、信じ切れるか。経済学者やエコノミストと称する人たちが、連日ふりまく不安材料を、安倍さんが沈着冷静、懇切丁寧に論破してくれるかというと、そうでもない。国会答弁など聞いていると、

「何事も多少のリスクは伴いますよ」と言っているようにも聞こえる。つまり、信じ切れない。そこで、

「大丈夫ですか」という質問が増えることになるのだ。安倍晋三というリーダーの器が試されている時だと私は思う。器とは何か。簡単に説明しにくい。だが、こういうことは言える。国民の側が、〈大きな器〉だとみてとれば、信頼感も信用力もそれだけ増し、かりに難しい事態が起きても好転することがありうる。器の効用だ。

 ◇「西郷」がもし小柄なら…リーダーは見栄えも大事

ところで、私の好きな作家に時代小説の名手、池波正太郎がいる。一九九〇年に六十七歳で死去しているが、いまに至るも人気が衰えず、今年も『池波正太郎─生誕90年記念総特集』(河出書房新社)が出版され、読んでみたが面白かった。たとえば、藤沢周平は〈池波さんの新しさ〉という題のエッセーのなかで

〈三大シリーズ(『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』)のひとつの見識は、ヒーローとなるべき主人公に作者と等身大の人物を用意したことだったと思う。池波さんは主人公に、銭形平次、鞍馬天狗、眠狂四郎といった若くて恰好のいい男たちをえらばなかった。

自分によく似た年恰好の男を主人公に据え、時には風邪をひかせたり、時にはうまいものを喰べさせたり、実人生の自分を重ねながら物語をすすめて行った。鬼平や秋山小兵衛(『剣客商売』)のリアリティは、多分そういったところから生まれたはずである。……〉

と書いている。なるほど、同じ作家の目からみると、そんなとらえ方になるのかと感心した。

一方で池波さんは、日本のヒーローについても随所で触れている。戦国の世、信長、秀吉、家康は傑物に違いないが、甲斐の武田信玄は三人をしのぐ器であったこと、信玄があれほど早死にしなければ確実に天下人になったであろうことが、繰り返し記されているのだ。

また、幕末・維新のリーダーについても、池波さんは興味深い批評をしている。

〈西郷隆盛は人物も立派なのだが、何しろ、見るからに偉人の風貌をそなえているから、することなすこと、すべてに信頼をもたれる。もしも西郷隆盛が〔きりぎりす〕のようにやせた男であったら、あれだけの仕事をなしとげられなかったであろうし、上野の山に銅像もたたなかったであろう。

この点、大久保利通は大分に損をしているといえそうだ。人間というもの、姿かたちも大切なものなのである〉(『人斬り半次郎』)

ヒーローやリーダーは、内実が第一であることは言うまでもないが、器の大小はそれだけでなく風貌、見栄え、つまり姿かたち、押し出し、そこからにじみ出る雰囲気にも左右されるという指摘はそうに違いない。

〈あの巨体、あの重々しさ、堂々たる、そのくせ少しも力まずしてそなわった威厳など天性のすばらしさは、西郷の声や言葉を〔真実〕のものとした〉(同)とも礼賛した。

二十世紀のリーダーを改めて思い起こすと、ルーズベルト、スターリン、毛沢東、ドゴール、レーガン、コール、先日亡くなったサッチャー、日本では佐藤栄作、中曽根康弘ら、いずれも大柄で見栄えがした。小柄でも、チャーチル、周恩来、吉田茂、トウ小平などは風格が備わっていた。

卑近なところでは、東京都知事、長身の前職、石原慎太郎さんは得をし、短躯の現職、猪瀬直樹さんは損をしている。短躯をカバーする何かがあれば別なのだが。

脇道にそれすぎた。安倍さんの器論に戻る。姿かたちで言えば、西郷の風貌はないが、きりぎりすほどの痩身ではなく、まあ並だろう。ポストが雰囲気を変えていくこともあるから、注目して見守るしかない。

OBの武村正義元官房長官がテレビで安倍評をしていた。

「よくやっている。一期目よりも大人になった。私はお父さん(晋太郎・元外相)と付き合ったが、包容力、人間的な幅もあった。お父さんには及ばない」

そうかな、と思いながら聞いた。幅が広いとは言えないが、目標設定力は評価していい。とにかく、安倍さん、あまり歌ったり、はしゃいだりしないことだ。西郷さんの威厳、学んだほうがいい。(サンデー毎日)

杜父魚文庫
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