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安倍さん、選挙制度改革を本気で  岩見隆夫
暮れに選挙をしたばかりなのに、年明け早々からまた選挙の話か、と煙たがられるかもしれないが、何と言われようとも放っておくわけにはいかない。選挙制度の改革は避けて通ろうと思えば通れるが、それでは日本の政治は確実にパンクするからだ。

昨年の春だったと思う。私は自民党の加藤紘一元幹事長に、「話がある」

と誘われ、新宿の一杯飲み屋で会った。加藤さんは当時、超党派の〈衆議院選挙制度の抜本改革をめざす議員連盟〉の代表世話人をしていた。前年、中選挙区制の復活を意図して作られた会だ。

「マスコミもひとつ応援してくれないか。われわれは本気でやるつもりなんだ」と加藤さんのはずんだ話である。中選挙区制復活論は私もかねて、繰り返し訴えてきたことだから、もちろんOKだ。

選挙制度の改革は政界だけでは手に負えない。世論、マスコミもその気になってくれなければ、という趣旨で、とりあえず政治記者の古株の私に持ちかけたのだろう。

まもなく議員連盟の勉強会が開かれ、出掛けてみた。もう一つの代表世話人席に民主党の渡部恒三最高顧問が座っている。森喜朗元首相をはじめ自民党から共産党まで約百人の幹部、ベテランが続々詰めかけ、大変な熱気だった。講師の河野洋平元衆院議長は、一九九四年一月、現行の小選挙区比例代表並立制の導入を決めた主役(当時、自民党総裁)の一人だが、

「小選挙区にしたのは間違いだった。状況認識が正しくなく、不明を詫びる」と率直に謝ったりした。

この雰囲気から、軌道に乗るな、と私は思った。しかし、その後議論はあっても、結局一票の格差是正や議員定数削減に矮小化されていく。選挙が終わってみると、加藤さんは落選、渡部さん、森さんは引退、あの時勉強会に出席していた顔ぶれを思い起こしても、樽床伸二民主党幹事長代行(当時)は落選、古賀誠、武部勤両元自民党幹事長は引退と、歯が抜けたようだ。

中選挙区制なら、加藤さん、樽床さんもゆうゆう当選していたのに。これでは改革のほうも進みそうにない。与党(自民、公明)はとりあえず三二五議席にふくらみ、これに安住して改革意欲も削がれそうだ。政党、政治家の習性である。

だが、今回、小選挙区の得票のうち、五六%が死に票になっていることを誰もが知っている。現行制度のもとですでに六回衆院選が行われ、そのたび死に票問題がやかましくいわれながら、すぐに忘れてしまう。あるいは忘れたように装い、次の選挙を迎える。情けない繰り返しである。

■衆院四八〇人は自覚を! 欠陥制度での当選だと

とにかく、小選挙区制は最悪だ。制度改革は中選挙区制に限ったことではない。暮れに、塩じいこと塩川正十郎元財務相が示した改革案も結構魅力的だった(十二月十四日付『産経新聞』)。それによると、

(1)衆院はいまの定数四八〇を三〇〇に減らし、比例代表をなくす。選挙区を小選挙区から都道府県単位に改め、定数は人口比で、例えば東京都四二議席、大阪府二〇議席、高知県二議席という具合にすれば、人材が集まるのではないか。

(2)当然、地方の声が国会に反映されなくなる、という批判が出るだろうから、参院は四七都道府県に各二議席ずつ割り振り、定数九四として、地方の意見を代表させる。良識の府として再生できるはずだ─。

というのである。いまの定数は衆院四八〇、参院二四二の計七二二だから、塩川票の三九四だと半分強、いい線だ。しかし、衆参の比例代表に頼っている中小政党は納得しないだろう。

今回も自民だけが小選挙区(二三七)で比例(五七)の約四倍をとったが、民主、維新、公明、みんな、未来、共産の中小六党を合計すると、逆に小選挙区(五六)は比例(一二一)の半分以下である。比例分を都道府県単位の大選挙区でカバーできるか、激論になって収拾がつかないと思われる。だが、塩川案は十分に議論の刺激剤になる。

要は質のいい人材を国会に送り込んで、落選を気にせずに思い切った政治活動をしてもらうには、どんな制度が最適か、だ。一区一人の小選挙区制はもっとも不適である。議員はたえず落選を恐れ、政治活動は二の次で選挙区にクギづけになる。

先の議員連盟の勉強会では、河野さんが、「私の気持ちはいまにして思えば、一〇〇選挙区、定数三(の中選挙区三〇〇人)だった」

と告白し、森さんも、「いつまで議論しても仕方ない。次は一五〇(選挙区)×三(定数)にしたらいい」と述べた。

二人とも定数三で共通している。かつて、公明党も一五〇×三(の中選挙区四五〇人)を提唱したことがあったが、いまは別の案になった。

定数三は微妙である。選挙後の衆院新勢力でみると、自民、民主、維新の順で、あと公明、みんな、未来、共産と続く。この順番はいつ入れ替わるかわからない。未来が結成されるまでは公明が第三党だったが、選挙後は未来が第六党に転落、維新が第三党に割り込んだ。定数三で固めるには、各党の利害が激しく衝突して、調整が大変だろう。

だが、大変なことをまとめるのが政治の仕事である。言うまでもなく、選挙制度は議会制民主政治のベースであり、民意を反映しない欠陥制度では民主主義が衰退し、新たな危機を生む。

年初から、こんなイロハみたいなことを書くのは本意ではなく、情けなくもあるが、実態から目をそらすわけにはいかない。衆院の四八〇人は、当選を喜ぶだけでなく、欠陥制度のもとで国会入りした自覚を持ってもらわないと困る。

安倍晋三首相は、内外の新政策展開に意欲的なのは結構だが、手がける最優先事項の一つに何としても選挙制度改革を加えてもらいたい。いずれ次の衆院選がやってくるが、その時に定数削減ぐらいでお茶を濁したのではやりきれない。安倍さん、しかと頼みますよ。(サンデー毎日)

杜父魚文庫
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