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書評「21世紀に生きる日本人のための浄土思想を求めて」  宮崎正弘
シジフォスの神話に現れた不条理とは何だったのか?大震災後の日本の保守陣営の言説は物足りないばかりではない。
 
<上橋泉『21世紀に生きる日本人のための浄土思想を求めて』(如月出版)>

平成二十三(2011)年三月十一日午後二時四十六分に発生した東日本大震災の報を中国福建省福州市で聞いた。中国をほっつき歩く時は滅多にテレビを見ないのに虫の知らせだろうか、偶然、ホテルの部屋でテレビのスイッチを入れた。そのホテルはNHKbsが受信できた。

そして評者(宮崎)は或る雑誌に次のように書いた。すこし長いが引用する。

(引用開始)
「衝撃の映像をみて咄嗟に思い浮かべたのはギリシア神話にでてくるシジフォスだった。アルベール・カミュも実存主義の随筆『シジフォスの神話』を残したが、文学青年時代に意味も分からずに、この箇所を何回も読んだ。シジフォスが神の命令で山の頂きへ大きな岩を苦労してあげると頂上から岩は再び落下し、また下山して岩をあげる。その繰り返しという不条理。

これは無常を著すのか虚無主義を示唆するのか、よく租借できないまでもシジフォスの神話が鮮明に焼き付いた。三陸海岸は記録に残るだけでも中世から何回も津波に襲われ、復旧したと思いきや、次は超弩級の被害がもたらされた。防潮堤は機能しなかった。

しかし自然と共生する信仰がある日本人はあきらめも早い。小林秀雄が比喩した、あの無常の精神が蘇る。地震に遭遇しても諸外国のような略奪、強盗は日本ではおこらず反対に国民の団結がおきた。

共同体の復活がみられ、助け合いの精神が生き生きと復活した。

しかし自然災害に対して欧米ならびに中東は異なった世界観を広げる。ユダヤ教もキリスト教もイスラム教も一神教だ。そして自然は神が造ったはずなのに万能の神が制御できない大地震を目撃すると教義への懐疑がおきる。
 
欧米では自然は人間の敵とされてきた。

1755年のリスボン地震では津波、大火によって十万近い人々が犠牲となり大航海時代に繁栄したポルトガルの象徴=リスボンは灰燼に帰した。世界に覇権を打ち立てていたポルトガルは爾後、歴史の舞台から消え、貧しい農業国家へ転落した。

イマニエル・カントはこの災禍を体験したあと哲学の基調を大きく変えた。一神教の限界をみたのだ。カントは宗教思想より自然の崇高を見いだした。ルソーもモンテーニュもしかり。いったい万能の神は災害を防げなかったばかりか聖堂も破壊されたではないか。


ヴォルテールはリスボン地震直後に『カンディード、或いは楽天主義』を著し、「慈悲深き神のいうすべてのできごとは最善」とする考えに根底的疑義を呈しつつ、カソリック思想に反発した。

かくすれば日本でも戦後を支配した生命尊重、合理主義、市場原理主義という伝統に基づかない価値観への猜疑が生まれ、戦後民主主義が選んだ民主党政権が災禍を前にまったく無能である実態も露呈された。

直後から発揮された、日本人の静粛な団結ぶり。対照的に唐山地震のおり、住民が忽ちにして匪賊と早変わりして被災者を襲い、強盗になり家財、現金を徹底的に盗み出した。救いを求める腕に時計があれば、その腕をちょんぎって腕時計をもぎ取る。被災者の救出? そんなことをする中国人はほとんど存在しなかった。先進国アメリカでもロス暴動では強盗、掠奪、暴行が起きた。


中国人が日本に初めてやってきて驚き、且つ呆れるのは日本中どこへ行っても設置されている自動販売機の夥しさ。たばこもお茶もコーヒーも売っている。しかも誰も自動販売機を壊して、なかの現金や商品を盗みだそうとはしない。日本はなぜかくも安全なのか!「あれは囮か」と聞いてくる中国人にとって日本の事象すべてが不思議である。

最近も中国で目撃したことと比較してみよう。

山東省済南の駅前商店街に自動販売機があった。新品なのに壊れていた。すぐに襲われたことは歴然としていた。ATMは人通りの少ない箇所には設置されておらず、また引き出し額は上限がある。それでも真っ昼間にATMからでたところを襲われる女性が頻出していてテレビニュースでは対策がないものか、とコメントが集中した。ATMには偽札も多いことが駐在日本人の間では常識となっている。


ことほど左様な社会だから鉄道切符は駅で並んで買う(中国では新幹線ばかりか従来線の切符を購入するにもパスポートが必要である)。新幹線駅の自動発券機コーナーはがらがらである。自動販売機、自動発券機になじんでいない証拠である。

東日本大地震の中継画像を中国で目撃しもうひとつ考えたことがある。

震災直後に予定を切り上げて帰国し、自宅書斎の書棚から乱雑に崩れ落ちた蔵書の山を整理しつつ、これらは被災地の瓦礫に似ていないかとの連想だった。今後、蔵するに値しない、無用の長物が多いのではないかという思いに捉われ、猛烈に古典が読みたくなった。時局解説や雑学的な新書などの新刊、一度読んで心に残らなかった書籍を一斉に処分することにした。その整理に百日を要したが、近代の書籍より数百年の歴史の歳月に耐えた古典を猛烈に読み返したくなった。

これからの日本でおこりうる哲学上、思想上の転換は風雪に耐えた伝統的な日本思想の回帰になるのではないだろうか」(引用止め)。
 
 ▼著者は浄土宗に真理を求めた

上橋泉氏(柏市会議員)の『21世紀にいきる日本人のための浄土思想を求めて』を論じようとして、ちょっと長い拙文の引用になったが、著者の上橋泉氏は次のような体験を経て、浄土宗に神(絶対者)の真理を発見する。

まず大震災直後に『団結しよう』と呼号して保守派文化人が合唱を始めた。櫻井よしこ、安部晋三も、藤原正彦もそう主張したが、著者の上橋には感動がなかった。

これらの発言を聞いて「日本の保守派が尊敬できなくなってしまった。かれらに違和感を覚えた」と率直に言う。寧ろ「天罰だ」と言った石原慎太郎の発言に、真実があるのだと感得した。霊感によるという。
 
「混濁の世に彷徨う衆生を済度せんとの歴史上の偉大なる聖の熱き思いから生まれた浄土思想」の成果は限定的であるにせよ、「思想の大輪は後世において大きく花開く」

そして「理論理性の世界に閉じこもるインテリたちに論争を挑む覚悟で」著者は綴った。つまり「日本人は懺悔し絶対者に回帰しなければこの国は本当に奈落の底に転落してしまう」という危機意識が底辺にあった。

哲学的命題を抱えながら、これからの日本人像を探る意欲作となった。

(読者の声)北朝鮮の金正日総書記時代の閲兵式の模様が動画サイトにありました。中国の動画サイトにアップされたものの転載のようです。

http://www.youtube.com/watch?v=dH_064Sqjh0&feature=player_embedded

設営の様子から観衆の反応まで見事に捉えています。

日本では北朝鮮軍の行進の秩序正しさから軍規がかなり高いという評論家がいました。実際に映像を見てみると行進はたしかに統制がとれています。脚を真っ直ぐに伸ばしたプロイセン・ロシア・中国などと同様の行進です。

ところが観衆の様子を見るとてんでバラバラ。1:24の軍人たち、つまらなそうな顔であちこち見ている。1:45からの美女軍団三人娘、明らかに整形している。

2:30の拍手する観衆の中にはアクビしているものさえいる。2:40からの金正日総書記の退場場面では手すりに手をかけながら歩く姿から体調があまり良くなかったことがわかります。北朝鮮軍に対して我が国自衛隊の行進はどうなのか、平成22年度観閲式が動画サイトにありました。

http://www.youtube.com/watch?v=h6Vx6gFw74M (1時間)
http://www.youtube.com/watch?v=6OwaFF4bvMo (9分強)

こちらは観衆の声が入っていて面白い。日本陸軍はフランス式からプロイセン式に改めた際に、脚を真っ直ぐに伸ばしたプロイセン式の行進は受け入れなかったと、ある外国人が指摘していましたが、プロイセン式の行進は日本人の美学に合わなかったのでしょう。

朝日・毎日・中日や沖縄タイムズなら「軍靴の響きが〜」といった空論で戦争につながると自衛隊を否定したいところでしょうが、観客からは歩兵の行進では人形みたい、航空機や戦車の行進ではカッコイイと何度も声が上がる。

日本の平和を守る自衛隊の練度の高さを誇りに思うのが普通の日本人の感覚なのだとよくわかります。中国・韓国・北朝鮮が騒げば騒ぐほど日本は普通の国に近づいていく。昨年の衆議院選挙では自民党安倍総裁の国防軍発言はまったく問題になりませんでした。


政治系の人気ブログでは平成の脱亜論を説くものばかり。自民党が夏の参議院選挙で勝利し、尖閣あるいは竹島絡みで小競り合いでも起きたなら、憲法改正も案外すんなり通るかもしれませんね。(PB生、千葉)

杜父魚文庫
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