<< 政府 連携して北朝鮮に自制求める   古澤襄 | main | 胡錦涛、突如、貴州省遵義を訪問(12月2日)   宮崎正弘 >>
「大きな議論」に欠ける 岩見隆夫
喧噪(けんそう)のなか、政治が見えにくくなっている。離合集散はかつてなく目まぐるしい。どうしたら票が釣れるか、ただの<票こじき>になりかけているようにもみえる。ここは、古い話から−−。

三木武夫元首相が脳内出血で国立病院医療センターに入院したのは1986(昭和61)年、翌年三井記念病院に転院、88年11月14日、膵臓(すいぞう)がんで死去した。81歳。

この間、岸信介元首相は2度、3度と三木の病床を訪れている。ズケズケが身上の睦子夫人が、

「岸先生、あなたは持論と反対じゃありませんか。義理は欠けって……。もうあなたより若い病人のことなんか心配しないで、ご自身のことだけ考えてらしたら」と言っても、岸は、

「いや、私は暇でしょうがないから来てるんですよ」と笑っていたという。

「年取れば、転ぶな、風邪ひくな、義理を欠け」という岸の持論は当時から有名だった。しかし、見舞った岸のほうが三木より早い87年8月7日、90歳で亡くなっている。

この2人の関係、戦後保守とは何か、を考えるうえで、注目に値する。岸首相が警職法改正を強行しようとした時、三木経済企画庁長官は灘尾弘吉文相、池田勇人国務相とともに反対し、抗議辞任した(58年12月)。

また、岸が命運をかけた日米安保条約の改定を採決する衆院本会議(60年5月)を、三木はボイコット、抗議している。岸にとって、三木は肝心なときに反目する。いわば政敵だった。

睦子夫人は、<竹下登さんが気配りの政治というけれども、岸さんはそれ以上の気配りの人だった>

と書き残している(「信なくば立たず−−夫・三木武夫との五十年」)。睦子によると、三木は最後まで岸に敬意を表し、「端倪(たんげい)すべからざる人物だ」と言っていたという。

この話を思い起こしたのは、衆院解散からまもなく、引退を決意した鳩山由紀夫元首相が、野田佳彦首相と会い、

「もっと包容力を持って行動してもらいたい」と注文した時だった。野田は鳩山を切ったが、岸は三木を排除しようとしなかった。気配りというより包容力だろう。かつての自民党が長期政権を維持できた秘密の一つと言っていい。

なにしろ、三木が戦前の42(昭和17)年、非推薦で衆院選に立候補、当選した時、岸は東条内閣の商工相、翌年は国務相・軍需次官に就いている。

戦後、岸はタカ派保守の総帥、三木はリベラル派の代表格として、自民党内の潮流を二分してきた。この違いは、野田と鳩山の比ではなく、対立・抗争も繰り返したが、分裂することはなかった。保守の粘着力である。

岸の退陣から52年、三木の退陣から36年が過ぎた−−。

岸の孫である安倍晋三が再び自民党総裁に選ばれ、副総裁に旧三木派の流れをくむ高村正彦を起用した。

「なぜ高村副総裁か」と尋ねると、安倍は、

「日中関係もあるし……」と短く答えた。対中強硬派の安倍が、日中友好議員連盟会長として、中国と親交のある高村と組み、バランスをとったということだ。

だが、それだけとも思えない。高村は高村坂彦・近衛文麿首相秘書官の四男。坂彦は55年、衆院旧山口2区に日本民主党から出馬、佐藤栄作、岸についで3位当選。三木の側近を貫き、岸が自民党総裁選に立候補すると、

<戦争責任者の一人だから自重すべきだ>という書簡を発表して反対した。硬骨漢である。岸と三木、安倍と高村、は一種の因縁を感じる。

何が言いたいか。睦子は、<岸さんとは考えが違ってぶつかりあったが、日米安保について言えば必要だとお互いに認め合っていたんです>

と書いている。かつての政治リーダーはケンカをしても、何が国と国民の利益かという奥深いところで理解し合っていた。昨今は小競り合いだけで、大きな議論がない。安倍が登場すると、民主党は右傾化と印象批判を強め、

「われわれは中道だ」と繰り返す。ひとしきり中道論争が続いたが、実りがない。最長老の中曽根康弘元首相は、

「民主党は<中道>を自らの逃避の場所に使おうとしている。大義名分を堂々と示さなければ<第二自民党>に堕するだけだ」
と叱った。もっともだ。

第三極のあわただしい離合集散劇も、大きな議論が欠けている。脱原発を細分化してどうするのだ。岸、三木のスケールに学んでほしい。(敬称略)

杜父魚文庫
| - | 05:42 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |







スポンサーサイト
| - | 05:42 | - | - | pookmark |







コメント
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://kajikablog.jugem.jp/trackback/1002127
トラックバック

CALENDAR

S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< October 2019 >>

SEARCH

SELECTED ENTRIES

RECENT COMMENT

CATEGORIES

ARCHIVES

LINKS

PROFILE