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「日本維新の会」よくわからない 岩見隆夫
作家の渡辺淳一さんが、「橋下クンに総理をやらせてみたらどうか」という一文を『週刊現代』6月2日号に寄せたのを読んで意外に思ったことは、以前当コラムに書いたことがある。

渡辺さんは、〈いまの閉塞したニッポンを変えられるのは彼しかいない〉と断じ、理由として迫力と色気をあげていた。私には作家的感性がないから反論しにくいが、冷やかしでなく本気でそう感じているのだろうか。

30年ほど前、毎朝、通勤電車のなかで、渡辺さんの新聞連載小説『ひとひらの雪』を読んだ記憶がある。男の恋愛心理を描く達人だと思った。

いまは確か78歳になられる。私より少し年長だが、医者でもある高齢のインテリ作家の目に、橋下徹大阪市長がなぜそこまで魅力的に映るのか、不思議で仕方ない。

迫力と色気というが、男性一般と政治リーダーの場合では当然意味合いが違ってくる。甘い顔のやさ男で話術にたけた橋下さんは、一般男性としてそれがある。だから、タレント弁護士で売れ、テレビ画面に再三登場し、〈ナニワの寵児〉のもとになった。

だが、国家を経営する権力者としての迫力と色気がいまの橋下さんにあるかと言えば、ない。ない、が言い過ぎだというなら、極めて薄いというしかない。

戦前の首相で言えば、犬養毅さんは〈オオカミのごとく〉と言われ、浜口雄幸さんは〈ライオン〉の異名がついて回った。だが、犬養さんは天下の才人として、浜口さんは鈍重そのものの重量感で、指導者独特の迫力と色気を備えていた。面相でなく、身辺からにじみでてくるものである。

戦後の代表格はやはり田中角栄さんだろう。ほかにもいろいろいる。ところが、今年元日付の『産経新聞』が、有識者約千人にネット調査で、〈理想的なリーダーは誰ですか〉と問うたところ、(1)坂本龍馬(2)織田信長(3)徳川家康(4)小泉純一郎(5)橋下徹がベスト5だった。

現役では橋下さんがトップ、田中さんは9位に追いやられ、石原慎太郎東京都知事は13位。その後の各種世論調査も似たような傾向を示している。

となると、渡辺さんの〈橋下首相論〉は世間の空気を代弁したことになるのだろう。しかし、私は危なっかしいものを感じる。日本が内外ともに国難的状況にあること、にもかかわらず既成の諸政党にはパンチがなく、旧態依然の政治手法にかまけていること、そこまでは、まったくその通りである。しかし、だからといって〈橋下さん〉と声をかけるのは、飛躍がある。

◇価値観・方向性の一致? やはり「政策」だろう

橋下さんが率いる地域政党の大阪維新の会は、9月8日、大阪市内の全体会議で、日本維新の会という名称の国政政党を設立、次期衆院選で国政に進出する方針を決めた。

全小選挙区(300)と比例代表(180)に、計350人から400人を擁立し、過半数(241)の当選を目指すという。この時点で維新の国会議員はゼロ、のちに自民、民主、みんな三党の衆参議員7人が参加して政党資格要件(国会議員5人以上)を満たした。

確かに、〈比例代表でどの党に投票するか〉という世論調査の設問に対して、6月段階では維新が第1党に躍り出たこともあったが、最近はやや沈静化して自民党につぐ第2党に収まっている。

それでもすごい人気で、選挙予測のプロが数十議席から百議席前後をはじいているのもわからないではない。民主党首脳の一人は、

「細川さん(護熙・元首相)のケースがありますからねえ。ひょっとしたら、ひょっとする」と私につぶやいた。

細川さんの場合、熊本県知事を辞めたあと、1992年5月、日本新党を旗揚げし、翌93年7月の衆院選で35人当選させ(第5党)、そのまま連立政権の首相に就任した異例のケースである。政党間の力関係から、意外な展開になったのだ。

橋下さんはいまのところ、衆院選に出馬しないと言い切っているから〈橋下首相〉はありえないが、しかし、これまでの豹変歴からすると、いつ「出る」と言い出すかわかったものではない。

だが、私の橋下不信はそんなことではない。9月9日開かれた公開討論会には、国会議員、地方首長らが出席したが、橋下さんは冒頭に、

「個々の政策でなく、根底の価値観が共有できるか、方向性が一緒かを話し合ってもらいたい」

と呼びかけた。私は大変奇異な感じがした。価値観とは何を意味しているのか。突然、茫漠とした単語が飛び出す。

やはり政策だろう。わざわざ〈維新八策〉を用意し、センターピンは衆院定数の半減、消費税の地方税化などだという。だが、そのいずれも意見の一致はむずかしい。最初は、

「八策に賛同できるかどうかを連携の判断基準にする」と強気だったが、賛同が無理とみて、〈価値観〉などというあいまいで便利な言葉を持ち出したのではないか、と私は勘ぐった。もし、そうだとすれば、到底政治にならない。

特に衆院定数の半減は世間受けする。民主党が40議席減の公職選挙法改正案を出した時だし、そんなケチなことでなくバッサリ半分だ、という。〈まるでバナナのたたき売り〉という批判が出たそうだが、当然である。

議会のあり方を真剣に議論した結果とはとても思えない。ポピュリズム(大衆迎合)の最たるもので、しかも思いつきのように思われた。

公開討論会の翌日、出席者の一人で橋下さんのブレーンの中田宏前横浜市長は、民放テレビで、

「いざという時には、これでいくぞ、5年、10年かけてもという、それが価値観。きのうはキック・オフです」と語った。よくわからない。

「維新はシナリオなきやり方、ぶっつけ本番ですから」とも中田さんは言った。ますますわからない。

<今週のひと言>

 正直、退屈だ、党首選。(サンデー毎日)

杜父魚文庫
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